昼夜問わず賑やかなかぶき町では江戸の治安を守る武装警察"真選組"のお世話になる者も少なくはない。彼らの主な仕事は攘夷戦争締結後も各地で事件を起こす攘夷浪士の対処や将軍の護衛などだが、幕府の重鎮・松平に便利使いされたり強盗などの犯罪の対処、市民同士の小さないざこざ、を超えた問題の取り締まりなど日々忙しく働いている。ただその犯人逮捕にあたり彼らも所持している刀やそれ以外の戦車砲や手榴弾やらを町中でぶっ放し浪士たちとおっつかっつの暴行、破壊活動を行っており世間からの目は冷たい。
が警察に追われるようなことはないが確かに犯人を狙ってバズーカ砲が放たれるのを見たことはあるし話もよく聞いていた。
「あらまあ、お電話だわ」
ちょっと待ってくださいね、と手を洗って鳴り続ける電話の受話器を取る。配達の依頼かと思ったがどうやら違ったようで、かけてきたのは珍しくも真選組の沖田総悟であった。
「総悟くん?お電話珍しいですねえ」
町中で会うことやふらっとお店に寄ってくれることはあるがこうして受話器越しに声を聞くのは初めてではないだろうか。どうかしたのかと尋ねれば手が空いていれば今から時間をくれないかとのことだった。幸い先程、いつも同じ時間に来る常連客を一人見送ったところで今は誰もいない。沖田が電話を寄越し時間をくれなんてそうあることではないので何か大事なことがあるのだろうと
は二つ返事で急遽お店を閉める。そして待ち合わせに指定されたレストランへ向かった。
「まァ!貴女が
さん?」
「可愛らしい方!」と微笑む女性に
はきょとんとする。案内された席へ行けば呼び出し主の沖田と、テーブルの向かいに綺麗な女性が座っていた。席を立つ沖田にどうぞと奥へ促されて腰を下ろし、女性はすでに自分のことを知っているようだったが改めて自己紹介すれば彼女の方も"沖田ミツバ"と名乗ったので隣に座る総悟と見比べる。
「姉でさァ」
「あらまあ、やっぱり 似ておられますもんねえ」
そう言うと嬉しそうに顔を綻ばせる二人はやはりよく似ていた。美人姉弟である。
「姉上、こちらが先程話した好い人です」
「フフ 素敵な方ね」
良い人?と首を傾げていると続いて沖田から姉について紹介があった。近々ご結婚されるとのことで、お相手方にご挨拶も兼ねて遠路はるばる江戸まで出てきたようだ。心配性な姉に身の回りの、交友関係を明かして安心してもらいたく
を呼んだらしい。真選組といえば、世間からはあまり良い目で見られないことも多いし、実際に沖田たちが近所で破壊活動する場面を見たこともあるが、皆気さくに話しかけてくれるしお店にも顔を出してくれたり困っていることがあれば助けてくれることもあるので
にとっては優しい人たちである。もちろん沖田も。副長の土方や他の人にもなかなか過激な言動をして振り回している様も認知しているが年相応で可愛らしいところもあるのだ。しかしまた、姉であるミツバの前では自分が知るそれよりも殊更のようで、一人称が僕であったり素直で丁寧に話している。微笑ましい姿に頬を緩めていると、ミツバからの視線を感じそちらに向き直った。
「そーちゃんはどうですか?」
「とっても優しくて頼りになりますわ」
「まァ フフ」
「素敵な弟さんですねえ」
「アラ あらあら……」
「よしてくだせェ 照れやす」
口に手をあて上品に笑うミツバに少し頬を染め俯く沖田。彼は相手を煽るような、皮肉めいた発言がよくみられる印象で、それでいてカブトムシでバトルしたりする一面もあるし、中性的な可愛らしいベビーフェイスを持ちながらその剣の腕は真選組随一だとか。サディスティックで打たれ弱い。常時気怠げで飄々としていても守るべきものの為に戦う熱さもあるという二極化された面のどちらも持ち合わせていた。自分の前では今のように存外素直に振る舞うが決して猫を被るというか隠しているわけではないようで土方たちに容赦ない言動をしているのももちろん知っている
は沖田のことを魅力に溢れる人だと思っている。とても優しくて頼りになる素敵な人、これは本心だった。
「そーちゃんのことをよく分かってくれる素敵な恋人がいて安心しました」
「え、」
「姉上に負けないくらいの素敵な人でしょ」
素敵素敵と二人から褒められ悪い気はしないが今恋人と言ったような。思わず漏れた声に被せるように沖田が口を開いたのでぱっと彼の顔を見ると、ちょうどこちらを向いてアイコンタクトをされる。いや、実際に何か合図があったわけではないがその瞳がやけに必死なように見えて、先程紹介されたときに聞いたミツバが肺を患っていてストレスに弱いという話からも沖田は恋人がいるということで彼女を安心させたいのだろうということが分かった。嘘はあまり良くないと思うが、相手を思う気持ちも理解ができるので「まァそんなに見つめ合っちゃって」と悪戯げに微笑むミツバについ自分たちの世界に入ってしまって、と頭を下げると一層嬉しそうに頬を緩ませる。たった一人の弟のことが、まもなく嫁入りする彼女も心配なのだろう。このひとときで少しでも安心してもらえるのなら、と
も沖田の静かな頼みを聞くことにした。のだが。
「大親友の坂田銀時く…」
「なんでだよ」
ガシャアアアンと派手な音を立ててテーブルに置かれた料理に沖田の頭を突っ込ませた坂田銀時は話の流れで、恋人は良いとしても年上ばかりに囲まれて友達らしい友達がいないじゃないと新たな不安を見せたミツバのため
に続き呼ばれたのである。悩み相談もできちゃう大親友枠として。銀時を呼んだことでミツバの隣に移動した
は叩きつけられた沖田を心配する彼女に彼らなりのスキンシップですとフォローをいれた。
「つーかなんでこのメンツで
ちゃんがいんの?」
「恋人なんで」
「ハアアアアアア!?お前っハアアアアアア!?」
「まァそーちゃん お友達なのに内緒にしてたの?」
「いえ伝えたと思ってたんですが うっかり」
「うっかり じゃねェェェよありえねーだろ!!」
「旦那勘弁してくだせェ いくら
の作る団子が好きだからって」
「呼び捨て!?え!?ホントにそんな仲!?!?」
「いけねェやこの人
の団子が好きすぎて嫉妬してらァ」
「団子じゃねーんだよいや団子もだけど!?!?」
「銀さん落ち着いてくださいな」
宥めようと声をかければ「やってられっか
ちゃん帰りますよ!!」と席を立つ銀時を尻目に沖田はチョコレートパフェを四つ、店員に注文する。
「友達っていうか 俺としてはもう弟みたいな?まァそういうカンジかな なァ総一郎君」
「総悟です」
しれっと元の位置に戻り四つの内三つのパフェを目の前にして沖田の大親友に徹する銀時。とはいえ結局のところ銀時もまた沖田より年上なのでミツバは困ったような反応をみせた。
「大丈夫です 頭はずっと中2の夏の人なんで」
「中2?よりによってお前世界で一番バカな生き物中2?そりゃねーだろ鹿賀丈史君」
「総悟です」
「あとお前と
ちゃんの交際は認めませんよ」
こそこそと耳打ちをする沖田は恐らく銀時に事情を説明しているのだろう。仲良しね、と同じようにこちらに耳打ちしてくるミツバに笑顔で頷いて返す。そしておもむろに銀時の前にあるパフェを一つ引き寄せたかと思うとビチャビチャと真っ赤な液体をかけ始めた。タバスコである。チョコレートパフェ~タバスコを添えて~を己の体の弱さを武器に銀時に食べさそうとして、覚悟を決めた銀時が水を用意しろと口に運ぼうとしたところで水を飲むのはご法度なのか赤い何かを吹き出して倒れるミツバ。それに焦ってもはやタバスコパフェと化したブツを一気に飲み込んだ銀時は火を吹いたが沖田に抱き起される彼女が「さっき食べたタバスコ吹いちゃっただけ」と言うので思い切りずっこけた。
「
さん今日はすいやせんでした」
「あらまあ、何も謝られるようなことじゃないわ」
ミツバを送り届け、そのまま自分の家まで一緒に来てくれた沖田にお礼を言う。謝罪は急な誘いで店を閉めさせたことか恋人のフリをして共に姉を騙したことか。沖田の姉に嘘を吐くのは少し気になるところではあったが店のことは行くと決めたのは自分なのでまったく問題ない。それに沖田が姉を思う気持ちに寄り添いたくて恋人であることを否定しなかったが、ミツバは気付いていたのだろうと思う。
が恋人でないことも銀時が友達でないことも。姉を安心させるためフリをした弟と、嘘に気付いても気付かぬフリをした姉、それもまた沖田は気付いていたかもしれないが。互いを思い合う素敵な姉弟だ。いつも助けられ、店にもお客として来てくれる沖田の力になれるならそれは
としても嬉しい話なので何も気にしなくていいと言えば少し表情を緩ませお礼の言葉を返される。
「とっても素敵なお姉様ねえ またお会いしたいわあ」
「ぜひ 姉も喜びまさァ」
そう話して小さくなる沖田の背を見送ったのに。それからまもなく、ミツバは一足先に旅立ったと店に団子を食べに来た沖田から聞かされた。たったの一度の邂逅であったがあの一日のことを思い
は忘れないだろう。目の前でみたらし団子を頬張る彼によく似た、笑顔が素敵な人。願わくは彼女がまた、沖田たちに逢えますように。気落ちしていそうな沖田の顔は、それでいてどこかすっきりした様子だった。