訳あってお店を休んだ
は志村家にお邪魔していた。客間の机を挟んだ向かいにはひどく険しい面持ちのお妙が静かに座っている。お妙が淹れたお茶を時折啜りながら
は思った。相談(といっても
にとっては軽いいつもの世間話)をするべきではなかったかと。しかしお妙も
と同じ問題を抱えていたのだ。自分のことはそれほど問題視していなかったのだが、大切な友人のこととなるとまた別で。どうしたものか、と考えに耽ろうとしたところで襖の向こう、廊下を誰かが歩いてくる気配を感じ二人揃ってそちらに目をやった。僅かに聞こえてくる声からしてこの家のもう一人の住人、お妙の弟である新八が帰ってきたのだと
は判断したのだが、とある問題の所為で気が立っているお妙はどこから出したのか立派な薙刀を持ち襖を開けた人物に向けて思い切り突き刺した。
「うらアアアアアア!」
「ぎゃあああああああ!!なななななな何をするんですかァ姉上ェェ!!」
「なんだ新八か」
「ステファンがァァァ!!」と叫ぶ新八に
は首を傾げながらそっと覗いてみると薙刀の先にはおめめパッチリのペンギンのような白い生物のぬいぐるみが身体の中心を貫かれているではないか。それを掴み薙刀を引き抜きながらお妙は座り込んだ新八を見下ろした。
「紛らわしい時に帰ってくんじゃねーよ」
「かっ…帰ってくんじゃねーよって…カワイイ弟になんてこというんですか!!」
「ブラックホールにでも飲みこまれてしばらくゆっくりしてくればよかったのによ~」
「遠回しに死ねって言ってんですか!!」
「ったくこちとらお前がいない間に大変だったつーのによォ」
そう言いながらペッと唾を吐き出すお妙。"カワイイ弟"に何があったんですかと尋ねられ彼女のとある問題への怒りが爆発する。
「今思い出してもムカつくぜェェェェ!!」
「ギャアアアアステファン――!!」
両腕を掴まれたステファンはバリッと引き千切られ見るも無残な姿へと変わり果てたのだった。
「あ~~~?下着泥棒だァ!!」
所変わってファミリーレストラン。銀時と神楽を呼び、新八は事の詳細を話した。自分の旅行中に姉の下着が二回も盗まれたのでなんとかならないかと。
「昔の人はよォ着物の下はノーパンだったらしいぜお姫様も」
パフェを食べながらやれ着物の下は暴れん坊将軍だのやれそのギャップがいいだのと言う銀時の前髪を鷲掴みどーでもいいと一蹴するお妙。パンツを取り戻したうえで盗んだ奴を血祭りにしたいという彼女に
は「あらまあ」と笑った。銀時はノリ気にならなかったが、やはり同じ女の子。神楽は下着ドロなど女の敵だと眉を顰める。
「姐御私も一肌脱ぎますぜ!」
「よしよく言ったついてこい 杯を交わすぞ」
「待て待て待て!死人が出るよ!君ら二人はヤバいって!!」
新八の止める声も虚しく、お妙と神楽はさっさと店を出て行ってしまった。冷や汗を流す新八に銀時は頬杖をつきホシの目星はついてるだろ?と目を瞑る。そんな銀時に一瞬首を傾げるも振り返った新八は動きを止めた。それにつられてテーブルの下を覗き込む
の目に縮こまって横になる一人の男の姿が映る。その男、真選組局長近藤勲が自分を疑っているのかと声を上げた。目線を合わせるようにしゃがみ込んだ銀時が真選組解体か~とニヤけていると、近藤から新聞が手渡される。そこには最近巷を騒がしてるコソ泥、怪盗フンドシ仮面についての記事が書かれていた。まっかな褌を頭にかぶり、ブリーフ一丁で闇を駆け、綺麗な娘の下着をかっさらってはモテない男達にバラまくという。鼠小僧の変態バージョン?と突っ込む新八を余所に銀時は懐から一枚の下着を取り出した。
「そーかこのパンツにはそーゆう意味が!俺ァてっきりサンタさんのプレゼントかと…」
「アンタもらってんのかィィ!!」
「フハハハハハ!そりゃあお前モテない男と見なされた証拠だよ 哀れだな~」
「オーイ見えてるぞ 懐からモテない男の勲章がこぼれ出てるぞ」
「ふふふ、」
彼らのやり取りに
は小さく笑い、しかし記事に目をやり眉尻を下げる。下着がなくなったことをそれほど気にしていなかったが、もしこのフンドシ仮面によって盗られ、その上バラまかれているのだとしたら。お妙や神楽のように怒りこそしないが、さすがの彼女もあまりいい気はしない。ここだけの話、一目惚れをし買ったばかりの下着もなくなっているので少し気落ちしているのだ。
「なんで俺がモテねーのしってんだァァァァァ!!」
「ああああああパンツぅぅぅ!!」
バリッと先ほど聞いたのと同じような音を耳にし、銀時のほうを見ると彼が手にしていた下着を引き千切っていた。それからはっと我に返ったように
のほうへ振り向く。
「そ、そ、そ、そういえば、
ちゃんはなんでこいつらと一緒に、」
「実はここのところ下着が…お妙ちゃんとそのことでお話してたんですよ~」
「クソオオオオオオやっぱりか!!!!!」
「えっ
さんも被害にあってたんですか!?」
「なにィィィィィ!?
ちゃんもだとォォォォ!?」
銀時のやる気がMAXになった。俺のオアシス(のパンツ)の一大事…戦争だ!
は再び志村家に戻ってきた。武装した銀時、お妙、神楽、近藤がフンドシ仮面を捕らえるため瓦を割ったり薙刀を振り回したり地雷を仕掛けたりとそれぞれ準備を行なっている。それから日が落ち辺りが静かになった頃、彼らは草陰に潜みその時を待っていた。頬に止まった蚊を叩き潰す銀時に
は虫除けスプレーを持ってこればよかったなとまだ飛んでいる他の蚊を目で追いながら思う。それにしてもああもあからさまに下着を一枚吊るして、本当にフンドシ仮面はやって来るのだろうか。同じようなことを新八が突っ込むが銀時たちは大丈夫、来る、と自信たっぷりだ。しかし信用できない新八は抗議し、しまいには喧嘩になってしまった。そしてそれを止める近藤が、何か冷たいものでも買ってこようと提案すると四人は遠慮なく欲しいものを告げる。
「
ちゃんは何がいい?」
「あらまあ、私も行きますよ~」
「いやいや危ないからね!勲に任せなさい!じゃ買ってくるからおとなしくしてなさいよ」
しょーがない奴らだ、と歩き始めた近藤を見送っていた
はあ、と思い声をかけようとしたが遅く、ピッと何かが反応する音と共に彼は盛大に爆発した。困ったことに全員、爆発の原因である地雷をどこに仕掛けたのか覚えていないのだ。身動きとれなくなったと慌てる新八を嘲笑う声が屋根の上から降ってくる。
「パンツのゴムに導かれ今宵も駆けよう漢・浪漫道!怪盗フンドシ仮面見参!!」
高らかに笑いながら吊るされた下着のもとへ降り立つフンドシ仮面。彼の足が床についた途端、そこがまた盛大に爆発した。その衝撃で舞い上がった下着を、倒れ込みながらもその男は掴み取る。最後に笑うのは自分だと立ち上がり去ろうとした彼の足は地面を這って来た近藤により止められた。そして銀時に早くしろと叫ぶ。
「言われなくてもいってやるさ しっかりつかんどけよ」
不敵に微笑み愛刀を手に走り出した銀時の足元で無情にもあの機械音が鳴り、彼もまた以下略。それを見てフンドシ仮面は今度こそ勝利を確信したが、志村妙という女性は決して甘くはなかった。倒れる銀時の背を踏み台にしフンドシ仮面の頭めがけて薙刀を振り下ろし、見事自分の下着を取り返す。
「ほしけりゃすっ裸で正面から挑んできなさい 心までノーパンになってね」
そう綺麗に笑ったお妙に、新八と神楽は大喜びで駆け寄りそしてまた以下略。彼らですら避けることはできないのだから自分には到底無理だろう。草陰にしゃがんだままの
は「あらまあ」と、やはり綺麗に笑った。