「ってわけでよォ、ちょっと海賊になってたんだよ」
「あらまあ、お疲れさまでしたねえ」
目の前にあるパフェをじっくり味わいながら銀時は今日も
に愚痴を零していた。少し前に受けた依頼が中々に大変なものだったので、傷も癒え落ち着いたところで自分にとって一番の薬である
の顔を見に来たのだ。いつもなら世間話をして帰るのだが、今回は本題がある。数日後に予定している花見に彼女を誘う、これが何よりの目的であった。もともと志村姉弟がする予定であったらしくどうせならと銀時、神楽を誘ってくれたのだ。銀時としては酒と食べ物があれば それで良いのだが、欲を言えば華もほしい。さらに言うならば美味い酒を可愛い
に酌をしてほしい。そのさらに言うならば共に酒を飲みほろ酔いになった
とちょっとしたラッキースケベがあったらいいななんてことは別に考えていないこともないけれどもとにかく綺麗な桜を見ながら可愛い可愛い
と美味い酒を堪能したいと心の底から思う。ぶっちゃけおいしい展開を期待している。というわけで銀時は
を花見に誘いたいのだ。
「もうさァ、桜が良い感じだよね」
「そうですねえ」
「そろそろ絶好のお花見日和がやって来るよね」
「お天気もしばらく良いみたいですしねえ」
「お花見、行きませんか」
「万事屋の皆さんと?」
「あと新八の姉貴もいんだけどな」
「あらまあ、素敵」
「ということは!?」
「うふふ、お邪魔しても?」
「おっしゃああああぜんっぜん邪魔じゃないから!」
銀時はばっと立ち上がり両手を上に伸ばして全身でガッツポーズをした。
ひらひらと桜の花弁が舞う中、万事屋のメンバーと新八の姉のお妙と
は敷き物を敷きお弁当を囲むようにして座る。沢山の桜の木が植えられているこの場所は大変人気のスポットらしく、彼ら以外にも大勢の花見客が訪れていた。
「ハーイお弁当ですよー」
「ワリーなオイ、姉弟水入らずのとこ邪魔しちまって」
「いいのよ~二人で花見なんてしても寂しいもの、ねェ新ちゃん?」
お食べになってというお妙の言葉を聞き銀時はなら遠慮なく、とお弁当箱の蓋を開ける。
「なんですかコレは?アート?」
「私卵焼きしかつくれないの~」
コレは卵焼きじゃねーよと銀時は頭を抱えた。まさかお妙の料理の腕がこんなに壊滅的だとは思わなかった。お弁当箱の中にある黒い塊に口元を引き攣らせる。いや待て、甘味処を営む
がいるではないか。あんなに美味しい団子やケーキなどなど色んなものを作れる彼女ならば。ばっと
の方を見ると特に焦った様子もなくあらまあと笑っていた。焦っていない、つまりは彼女も何か持ってきている可能性が高いと。
「
ちゃんはお弁当はー…」
「前日にお妙ちゃんから連絡があって」
「私が用意するから
ちゃんは手ぶらで来てねとお願いしたんですよ~」
終わった。銀時は気絶したくなった。いっそ
を連れて帰ってしまおうかを考えたところでお妙が銀時の口に自分が作ってきたそれを「だまって食えや!!」と怒号を上げながら手で押し込む。横で見ていた神楽は食べなければ死ぬ、と暗示をかけながら食した。新八はそんな神楽と、続いて食べようとする
を必死に止める。
「ガハハハ全くしょーがない奴等だな どれ、俺が食べてやるから」
このタッパーに入れておきなさい。突然の乱入者に全員の視線が集まった。そしていち早く反応したお妙の手がその男の顔面に派手な音を立てて直撃する。そのまま倒れた男に跨り殴り続けるお妙を見ながら銀時はまだストーカー被害にあっていたのかと新八に聞いた。警察に相談した方が良いと言うがそのストーカーが警察だという事で世も末だなと顎に手をやる銀時。その後ろから新たな声がし、振り返った先にはずらりと並ぶ男たちの姿があった。
「オウオウ、ムサい連中がぞろぞろと何の用ですか?キノコ狩りですか?」
「そこをどけ そこは毎年真選組が花見を、」
「あらまあ、皆さんこんにちは」
「す、る、!?!?!?」
銀時に物申していた男、江戸の治安を守る特殊警察「真選組」の副長、土方十四郎は視界に入ってきた柔らかな笑顔に言葉を詰まらせ目を見開く。まさか、まさかとは思うが目の前で微笑んでいる女性はあの甘味処「和」の店長ではないだろうか。いやそんなまさか。こんな奴等と一緒にいるわけがない。目を瞑り眉間の皺を押さえながらぶんぶんと頭を振る。これはないな。どうやら自分は疲れが溜まっているらしい。そう、よくある他人の空似だろう。いやしかし自分が彼女を見間違うだろうか。土方は閉じていた目を開き女性を見る。返事がないことに首を傾げている彼女は「和」の店長、
その人で違いなかった。
「あれ、
さんじゃねーですかィ」
「お、おう…こんなとこで何やってんだ」
「何って花見に決まってんだろおたくの目は節穴ですか?」
「てめーにゃ聞いてねーんだよ!」
「ふふ、銀さんたちに誘っていただいたんです」
嬉しそうに顔を緩ませて言う
に、土方は銀時をキッと睨みつける。言葉で表現し難い腹の立つ顔で寝転んでいるこの男と、彼女が一緒にいることも気に入らないが、まずは真選組の花見の席だ。そもそも場所取りを監察方の山崎に頼んだはずなのだが当の本人が見当たらない。どこにいった、と声を漏らすと沖田が少し離れたところを指さしながらミントンやってますぜと言うのでその先を目で追うと確かに一人、全力でバドミントンをやる男がいた。その瞬間走り出し山崎に殴りかかる土方を見て新八が冷や汗を垂らした。そして戻ってきた土方、山崎と共に真選組が場所を譲るように銀時たちに申し立てる。お互い引く気配はなく、辺りが険悪なムードを漂わせはじめたとき、一人の男が声をあげた。
「待ちなせェ!!」
声の主は真選組一番隊隊長の沖田総悟で、万事屋と真選組は彼の提案した「第一回陣地争奪叩いてかぶってジャンケンポン大会」をすることになった。一戦目はお妙と真選組局長近藤勲。近藤はジャンケンに負けてヘルメットをかぶったがルールを完全に無視しピコハンをそれとは思えないほどの勢いと力で近藤の頭に振りおろしたお妙の攻撃により撃沈。二戦目の神楽と沖田は最初こそルールに則った叩いてかぶってジャンケンポンを(尋常ではないスピードで)していたが途中からただの殴り合いになり流れ、最後の銀時と土方の対決は勝手に飲み比べからスタートした後互いに酔っぱらった状態で己の得物を持ち、斬ってかわしてジャンケンポンを行い、銀時は木を切り倒し土方は定春とジャンケンをするという収拾のつかない状態になった。ルール関係無く好き勝手に騒ぐ周りを新八と山崎はもう放置して自分達で飲むことにし、ずっと座って見ていた
にも声をかける。
「すみません
さん、こんなことになってしまって」
「ふふ、とっても楽しいですよ」
「
ちゃん万事屋と知り合いだったんですね」
「銀さんは常連さんで、新八くんたちも最近よく来てくれるんですよ~」
主に新八と山崎の愚痴で盛り上がりながら三人はしばらく話していたが辺りも暗くなり、隊士の中には酔って眠ってしまう者が出てきだしたので、大勢での賑やかな花見はお開きとなった。片付けをしている新八、山崎は銀時と土方がいないことに気付き神楽やお妙、隊士たちに聞くが皆首を振る。その中で
が彼らの消えた方向を見ていたらしく、探して連れてくると言うので山崎が着いて行くと立ち上がった。新八たちは心配そうに
を見るが、山崎もいるし神楽や新八はまだ子供だから早く帰った方がいいと微笑む彼女に渋々頷く。隊士たちと共に歩きだした新八たちを見送って、
も山崎と銀時たちを探しに出た。割とすぐに、少し離れたところで二人は見つかった。自動販売機の上に乗っかって寝ている土方と取り出し口に頭を突っ込んでいる銀時の姿を目にし山崎は口元をひきつらせる。土方は山崎に任せて、
は銀時のそばにしゃがみこんだ。
「アレ?ここどこ?」
「自動販売機の取り出し口ですよ~」
「アレ?その声はマイエンジェル
ちゃん?」
「ふふ、銀さん起きてくださいな、帰りましょう?」
のっそりと頭を出して虚ろな目でこちらを見つめる銀時がぼーっとしたまま手を伸ばしてくるので受け止めて片腕を自分の肩へ回し、銀時の上半身を支えながら一緒に立ちあがり山崎に銀時は自分が連れて帰るという旨を伝えて、ゆっくりと帰り道を歩いて行く。だいぶと遅くなってしまったが、無事に万事屋に着き中へと入った。奥の部屋に新八が用意してくれたのであろう布団が敷いてあり、これが銀時の寝室なのだろうと
がそこへ彼を寝かせる。さっきまで一応意識はあったのだが、寝転んだ瞬間眠ってしまったようだ。その寝顔に微笑みながらそっと髪を撫でて部屋を出る。前に神楽が押し入れで寝ている、と言っていたのを思い出し静かに開けて彼女がいるのを確認し、神楽の髪も銀時と同じ様に撫で万事屋を後にした。