20

雄英敷地内、校舎から徒歩5分の距離にある"ハイツアライアンス"。そこが生徒たちの新しい家となる。8月中旬である今、各自の荷物が運び込まれA組生徒たちは自身らの寮の前に集まっていた。家庭訪問に来た相澤、オールマイトには毅然とした態度で対応していた祖父はが全寮制が始まる今朝、玄関で悲しみに打ちひしがれており「お風呂でのぼせないように」「風邪をひかないよう髪はすぐに乾かしなさい」「家ではないからスカートを穿き忘れるなんてことがないように」「おじいちゃん生徒たちの目を潰すわけにはいかない」とつらつら心配事を並べ抱きしめたまま離さないので出てくるのに少し苦労をしたのだがこれも祖父の愛であるから有難い。祖父や門下生、お手伝いさんに見送られそこまで仰々しくされるとこちらまで思っている以上の寂しさを感じてしまう。しかしやっとクラスメイトに会えるし、その彼らとの新しい生活に胸が躍るのも事実。寮の前に集まった皆の姿を見て、爆豪も、耳郎、葉隠、八百万も、皆ひとまずいつも通りに見えて、はほっと一息吐いた。



「とりあえず1年A組 無事にまた集まれて何よりだ」



「皆許可下りたんだな」という瀬呂の言葉に葉隠のところは苦戦したと返す。葉隠、耳郎は直接ガスによる被害を受けておりしばらく意識不明だったので当然といえば当然だろう。会見の様子から相澤がいなくなってしまうのではとの心配もあったがそれも一先ずは大丈夫そうで蛙吹たちが先生も集まれてよかったと言うとそれに頷く相澤。そして寮について軽く説明するがその前に一つ、と手を打つ。



「当面は合宿で取る予定だった"仮免"取得に向けて動いていく」
「そういやあったなそんな話!!」
「色々起きすぎて頭から抜けてたわ…」
「大事な話だ いいか」



轟、切島、緑谷、八百万、飯田。5人の名前が呼ばれた。



「この5人はあの晩あの場所へ 爆豪救出に赴いた」



「え…」と誰ともなく声が漏れる。も同じように、そしてその5人へ目をやった。あの晩あの場所、とは。爆豪救出ということはオールマイトが敵と戦った夜、神野にいたということなのだろう。その反応を見た相澤は行く素振りは皆も把握していたワケだと理解した。色々棚上げした上で言わせてもらうと続ける。



「オールマイトの引退がなけりゃ俺は 爆豪・・耳郎・葉隠以外全員除籍処分にしてる」
「!?」



オールマイトの引退によりしばらく混乱が続くだろう。敵連合の出方が読めない以上、今雄英から人を追い出すわけにはいかない。しかし行った5人も把握しながら止められなかった12人も理由はどうあれ相澤の、雄英の信頼を裏切った事には変わりない。正規の手続きを踏み正規の活躍をして信頼を取り戻してくれるとありがたいと言葉を送った相澤は切り替えるようにくるっと寮の方へ向く。



「以上!さっ!中に入るぞ 元気に行こう」



いや待って行けないです…。そんな心の声が聞こえてくるくらい皆のテンションは下がっていた。それぞれが起こったこと、言われたことを思い下を向く中、爆豪が「来い」と嫌がる上鳴をそばの草陰へ連れて行く。そして電撃が走ったかと思えば爆豪がアホ面と名付けたうェ~~~い状態の上鳴が押し出されてきた。



「バフォッ」
「何?爆豪何を………」
「切島」
「んあ?」



ヘロヘロの上鳴に吹き出す耳郎と、笑いを隠せない瀬呂には答えず戻った爆豪が切島へお金を差し出す。



「いつまでもシミったれられっとこっちも気分悪ィんだ」
「あ…え!?おめーどこで聞い…」
「いつもみてーに馬鹿晒せや」



うェいうェいしている上鳴に「だめ…ウチこの上鳴…ツボッフォ!!」と完全にツボってる耳郎にいよいよ皆笑い始め、場にいつもの空気が戻ってきた。しかしその中で1人、いまだ暗い顔をしている蛙吹を見つけ、の尾の先もへにょっと下がる。いつもなら周囲がこうして少しふざけて笑っている時、大きな声を出してというわけではないが一緒に楽しんでいるのに、どうしたのだろうかと。

3日で造り上げられた寮は1棟1クラス、男子棟と女子棟が左右で分かれており1階が共同スペースになっている。食堂、風呂、洗濯などはこの1階に備えられていてキッチンスペースに10人ほどが同時に座れる大小のソファが置いてあるリビングスペースも用意されていた。



「広キレー!!」
「中庭もあんじゃん!」
「日向ぼっこできるねえ~」
さん…お供しますわ…!」
「ブレないヤオモモ」



「豪邸やないかい」とフラつく麗日を抱きとめながら、日当たりの良い中庭でのんびりするのを思い浮かべていればパラソルやベンチを用意すると八百万が興奮気味に言うのでそれはまた優雅な日向ぼっこになりそうだと笑う。



「聞き間違いかな…?風呂・洗濯が共同スペース?夢か?」
「男女別だ おまえいい加減にしとけよ?」
「はい」



性欲の権化もブレない。変わらない峰田の言動にA組の日常を感じてまた一つ安心を覚えた。先を歩く相澤に続き2階で降りると部屋が並んでいる。1フロアに男女各4部屋の5階建てで生徒1人に1部屋あてられ、エアコン・トイレ・冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間にそれぞれにベランダまでついていた。部屋割りは雄英側ですでに決められており、2階に・峰田・緑谷・青山・常闇、3階に耳郎・葉隠・口田・上鳴・飯田・尾白、4階に麗日・芦戸・障子・切島・爆豪、5階に八百万・蛙吹・砂藤・轟・瀬呂となっている。女子は各階4部屋並ぶ内の両端に割り振られ、は唯一2階で1人だった。



「とりあえず今日は部屋作ってろ 明日また今後の動きを説明する」



解散の号令と共に各々自分の部屋へ行き荷解きを始める。事前に送った荷物がすでに部屋に届いていて、家具のセットや服をクローゼットに入れていき、上から聞こえてくる音に自分だけ2階で1人なのだなあと改めて思った。他の女子は両端の部屋を振られているのに自分は1部屋中に寄っているのは何か意味があるのだろうかと思ったが、ら真上ではなく少しズレた位置から届く足音や物音にもしや耳が良いことを配慮してもらっているのかもしれないという結論に至る。実家でも自分の部屋は奥の人があまり通らない場所にあったのでそういうことなのだろう。



「あとは~……これを置いて……」



ささっとベッドやデスクを配置し服や本、勉強道具などは早々に片付け細々としたもの、好きな動物やギャングオルカのグッズを棚に飾る作業も終えて「よしっ」と部屋を見回し満足気に息を吐く。そこまで量がなかったのでだいぶ早く済んだ。まだ皆は作業をしてるかなととりあえず1階へ行くとキッチンのところに爆豪が1人立っており、ちょうどこちらに気付いた赤い目と視線がかち合う。



「爆豪くん!もう片付け終わったの?早いねえ~」
「お前もだろが」
「えへへ」



それもそうか、と笑っているとじっと見つめられ、首を傾げる



「お前 何ともねーんかよ」
「うん? あ、うん!大丈夫、お恥ずかしながら怪我ひとつなく、」
「あァ?」



眉を顰める爆豪にはっと口を閉じる。爆豪や皆が大変な目に、大なり小なり怪我をした中自分が無傷であったことに無意識に負い目のようなものを感じていたのかもしれない。素直に無事で良かったと、それで良いはずなのに変な言い方をしてしまったことに爆豪の視線を受けて気付いた。



「……恥ずかしかねェだろ」
「うん、ほんと、今のは違ったと思いました……」
「……」
「爆豪くんは、怪我とか、」
「ねェわ」
「よかった~…心配だったの、」



心配した、というのは爆豪にとってはあまり良いものではないのかもしれないが。大切な同級生が敵に攫われて、それがどんなに強い人でもやっぱり心配はする。そう伝えると無言でゆっくり距離をつめてくる爆豪にまた首を横に傾けるとふっと爆豪の頭が落ちてきて、ぽす、と自身の肩に乗った。



「え、」
「、っちのセリフだわ」
「爆豪くん……?」



小さくて聞き取りづらいが"こっちのセリフ"と言われた気がする。爆豪も、の心配をしてくれていたらしい。爆豪の方が大変だっただろうに、とまで考えて、逆の立場だったら自分がどうであれA組皆の心配はする。彼も同じなのだと分かって、嬉しくなった。頬に触れる明るい髪の思ったより柔らかい感触を感じながら、預けられる頭をどうしたらいいのかとしばらくあわあわと手を動かしているとふっと肩が軽くなる。



「あ」
「何もねェならいい」



そう言ってキッチンから出て行こうとする背中に呼びかけると足を止めて顔だけ振り返った。



「心配してくれてありがとう!」
「……」
「あと、 おかえりなさい」



数秒の沈黙のあと。フンと鼻を鳴らしてポケットに手を突っ込み再び歩き出す爆豪。それを見送っているともう角で姿が見えなくなるというところで「たでーま」と聞こえ、は破顔した。

「部屋王~!?そんな楽しそうなことが!?」
「そうなんだよ~」
ちゃん声かけようと思ったら反応なくて」
「片付け終わったら気が抜けて爆睡しました…」
「そら疲れるよね!」
「またやろ~爆豪と梅雨ちゃんの部屋も見てないし」



翌朝共同スペースで朝ご飯を食べていると芦戸、葉隠たちから昨晩片付けが落ち着いた後皆の部屋を見て回り部屋王なるものを決めるイベントが行われたらしい。優勝は砂藤で、投票理由は「ケーキ美味しかった」だそうだ。糖分補給を必要とする砂藤の個性上、彼はよくお菓子を手作りしているのだとか。食べた過ぎる、と悔し気に呟くに砂藤はこれからいくらでも食べさせてやると笑ってくれた。ちなみに爆豪は声をかけたが「くだらねえ先に寝る」と一蹴したらしい。そして、こういうイベントに参加しないのは爆豪なら分かるが蛙吹までとは。は昨日の彼女の表情を思い出した。朝食を済ませ各自準備をして教室へ向かう中、が寮を出るタイミングでちょうど蛙吹もやって来たので顔を近付ける。



「ケロ、おはようちゃん」
「おはよ~! うん、今日は元気そう!」
「あら……気付いていたの?」
「うーん 昨日、元気ないのかなと思ったくらいだけど」



そう言いながら手を取り握ると頬を緩める蛙吹。



「私、表情が変わらないから分かりにくいでしょう」
「そうかなあ?」
「……少しね 落ち込んでいたの」
「…うん」



校舎までの道を手を繋いでゆっくり歩き、蛙吹は思っていることをぽつぽつと話してくれた。あの晩のこと、相澤が言った通り耳郎、葉隠、そして以外は5人が救出作戦をたてていたことを知っていたのだと。思ったことを言ってしまう蛙吹は、大切な仲間がルールを破るというのを止めるため心を鬼にして、辛い言い方をした。それでも行ってしまった彼らに、とてもショックで、止めたつもりになっていた自身の不甲斐なさや色んな気持ちが溢れて、いつもなら思ったことをすぐに言えるのに、何て言ったらいいのか分からなくなり皆と楽しくお話ができそうになかったと。だから部屋王決定戦にも参加しなかったようだ。でもその夜、改めて何て言えばいいのかわからなくなったことも含めてちゃんと話をしたらしい。



「皆と楽しくお喋りできないことも、とても悲しいの」
「うん、そうだねえ」
「でももう大丈夫よ ありがとうちゃん」
「え!私は何も!」



「梅雨ちゃんが自分で、たくさん頑張ったんだよね、すごいねえ」と握った手を揺らしながら言うと嬉しそうに微笑んだ。



「ケロ こうして聞いてくれたもの」
「うん?」
「私とっても嬉しいわ 気付いてくれてありがとうちゃん」
「わあ、ふふ こちらこそ話してくれてありがとう!」



済んだことを敢えて思い出させてしまっただろうに、蛙吹はにこにこと笑顔でお礼の言葉を繰り返す。蛙吹の様子が気になっていたけど状況的に仕方なかったとはいえ自分がいなかったときのことを、後から聞くのは良いのかどうか、悩んでもいた。それでも今朝、今までと変わらない表情に安心してつい声をかけてしまったけど、話が聞けて良かったと思う。林間合宿から神野事件まで。皆、色んなことを経験し、考え、思ったのだろう。敵連合の動きはこれから本格的になるのだろうし平穏を脅かすのは彼らだけではない。ひとつひとつ乗り越えて前に進まなくては。



「昨日話した通りまずは"仮免"取得が当面の目標だ」
「はい!」



教室にて、いつも通り相澤が教壇に立つ。ヒーロー免許とは人命に直接係わる責任重大な資格であり、当然それを取得するための試験はとても厳しい。仮免と言えどその合格率は例年5割を切るという言葉に峰田が「仮免でそんなキツイのかよ」と零した。



「そこで今日から君らには一人最低でも二つ……」



そう言いながら指で何か合図をする相澤に合わせてガラ、と教室の扉が開かれる。そこにはミッドナイト、エクトプラズム、セメントスたちが待っていた。



「必殺技を作ってもらう!!」
「学校っぽくてそれでいてヒーローっぽいのキタァア!!!」