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「ご機嫌よろしゅう雄英高校!!我ら敵連合開闢行動隊!!」



現れた2人の敵は以前も雄英を襲撃した敵連合であると名乗った。ピクシーボブに攻撃を仕掛けた男が手に持つ武器でさらに彼女の頭部を押さえつける。それに怒る虎と、マグ姉と呼ばれた敵を止めるもう1人の敵、リザードマンを彷彿とさせる緑色の肌を持つ男が間に入った。



「生殺与奪は全て ステインの仰る主張に沿うか否か!!」
「ステイン…!あてられた連中か―――……!」



飯田の声に反応したリザードマン、スピナーと名乗る敵はステインの夢を紡ぐ者だと背負っていた武器を構える。ざっと見回し一点に目を止め、それに気付いたマグ姉も「アラ」と呟いた。



「ユキヒョウちゃんがいる アタリね」
「!?」
「何でもいいがなあ貴様ら…!その倒れてる女…ピクシーボブは最近婚期を気にし始めててなぁ」



その言葉からして敵の狙いにが入っているのか、さらなる緊張が走る。スピナーの、大量の刃物を集め縛りつけて作られている得物に緑谷たちが一歩後退る中、虎が前に出た。



「女の幸せ掴もうって…いい歳して頑張ってたんだよ そんな女の顔キズモノにして男がヘラヘラ語ってんじゃあないよ」
「ヒーローが人並みの幸せを夢見るか!!」



虎の言葉に攻撃を仕掛けてくるスピナーと、戦闘態勢に入った虎、マンダレイが相対す。ここは2人で押さえると、マンダレイはその場にいる生徒たちに宿泊施設へ戻るように促した。決して戦闘はしないよう、飯田に引率を指示して。皆それに従おうと踵を返したが緑谷だけはマンダレイの方へ向き直った。「僕知ってます!!」と主張する緑谷は単独で動くことになり、、飯田、尾白、峰田、口田は施設への道を急ぐ。



「あいつら…!に反応してたよな!?」
「狙われてるのか!?とにかく、離れんなよ!」
「う、うんっ」



あの2人も敵連合だというのなら、USJ敵襲撃時に見られたであろう回復の力を狙っていたりするのだろうか。の額に汗が滲む。肝試しに出ていた他の生徒も気になるがとにかくまずは自分たちが戻らなければと走り続け、遠くで派手な爆発音が聞こえたところで木々を抜け施設の前に出た。そこにも敵が来ていて焼け爛れたような肌の男と相澤が交戦していたようだ。



「先生!!!」
「さすがに雄英の教師を務めるだけはあるよ なあヒーロー」



相澤の拘束具に捕らえられる敵の身体がズル、と崩れる。



「生徒が大事か?」
「!?」
「守りきれるといいな……また会おうぜ」



泥のように地面に落ちた敵はそのまま動かなくなってしまった。そういう個性なのか、戦闘中の発火が個性だと思っていた相澤は内心疑問を抱きつつ、戻ってきたたちに「中入っとけ」と声をかけ残る生徒たちの方へ向かう。言われた通り施設の中へ入り部屋にいたブラドや切島たちと合流したところでマンダレイのテレパスが脳に響いた。



『敵の狙いの一つ判明―――!!生徒の「かっちゃん」と「ちゃん」!!』



「かっちゃん」の愛称を知らないB組の物間は戸惑っていたがA組生徒たちはそれが爆豪を指すことを瞬時に理解し冷や汗を流す。



ちゃんは施設に戻っているはず――わかった!?「かっちゃん」!!「かっちゃん」はなるべく戦闘を避けて!!2人とも単独では動かないこと!!』



マンダレイから伝えられた内容ににそばにいた芦戸が飛びついてきた。尾白たちも近くに寄って囲むようにしてくれるのでは皆にお礼の言葉を述べる。そして切島や飯田、芦戸たちは爆豪たちを助けに行かせてくれとブラドに訴えたが、当然ながら却下されていた。先程マンダレイのテレパスにて敵の狙いが明かされる前にA組B組総員、イレイザーヘッドの名の下に戦闘を許可されているのだ。敵の数が不明なら戦力は少しでも多い方が、と食い下がったが戦闘許可はあくまでこの施設へ皆が戻るため、自衛のためのものであるとブラドは首を振る。そうであれば、と切島は扉の向こうの音を聞き取り相澤が戻ってきたなら直談判すると言ったが、様子をみていたブラドが「待て違う!」と声をあげた。途端炎が扉や壁を破壊する。



「皆下がれ!!くん無事か!?」
「私は大丈夫!!」
「さっきやられてた――敵!!?」



峰田の叫び通り、現れたのは先程相澤が交戦していた敵だった。今度はブラドが敵を操血の個性を使って壁に押さえつける。



「こんなところにまで考え無しのガン攻めか 随分舐めてくれる!」
「そりゃあ舐めるだろ 思った通りの言動だ」



「後手に回った時点でおまえら負けてんだよ」と口角をあげる敵。ヒーロー育成の最高峰雄英高校と平和の象徴オールマイト、ヒーロー社会に於いて最も信頼の高い2つが集まった今、ここでその信頼が揺らぐような事件が重なればその揺らぎは社会全体に蔓延するのではないか。例えば、何度も襲撃を許す杜撰な管理体制、挙句に生徒を犯罪集団に奪われる弱さ。動ける状態ではないのに余裕綽々と話す敵に切島がすでに爆豪が捕まってしまった可能性に気付いた。



「見てろ 極々少数の俺たちがおまえらを追い詰めてくんだ」
「無駄だブラド」



反撃しようと炎を纏い始めた敵の頭部に相澤の蹴りが入る。この敵は煽るだけで情報を出さない、と拘束具で縛りつつ追撃したがまたも泥のように崩れて消える。



「イレイザーおまえ何してた!」
「悪い 戦闘許可を出しに行ったつもりが洸汰くんを保護してた」



預かっててくれという言葉にがさっと立ち尽くす洸汰の元に駆け寄り怪我の有無を確認した。



「洸汰くん怪我は?大丈夫かな?」
「えっ、あ、お、おれは、」
「無事でよかった、頑張ったね!」



背中に手を添えると「でも、おにいちゃんが…」とこちらの服を握って目に涙を浮かべるのでぽんぽんと頭を撫でる。ぽつぽつと話すのを聞けばどうやら緑谷が敵から守ってくれて、相当な怪我をしているらしい。すぐにでも治癒しに行きたいが切島たちと相澤の話からしても応援には行けそうになく、仮に皆が戦闘に向かったとしても敵の目的である自分はここから出るわけにはいかないだろう。ブラドにここを任せまた出て行ってしまった相澤を見送り、は洸汰をそっと抱きしめた。

生徒41名の内、敵のガスによって意識不明の重体15名。重・軽傷者11名。無傷で済んだのは14名だった。そして、行方不明1名。プロヒーローは6名の内1名が頭を強く打たれ重体、1名が大量の血痕を残し行方不明となっていた。一方敵側は3名の現行犯逮捕。彼らを残し他の敵は跡形もなく姿を消した。こうして林間合宿は最悪の結果で幕を閉じ、はというと敵の全ての目的は不明であったが明確に爆豪と並んで狙われていたこともあり一旦警察に保護されている。相手にとっての狙いの重要度は爆豪の方が上だったのかもしれないが、事が落ち着くまで単独行動はさせられないということであった。



『我が校の生徒は必ず取り戻します』



2日後。テレビの向こうで相澤たちが、メディアの非難を受けている。根津校長、相澤、ブラドによる謝罪会見だ。攫われた爆豪について彼の体育祭決勝で見せた粗暴さや表彰式に至るまでの態度など精神面の不安定さが敵の言葉巧みな誘により悪の道に染まってしまうのではないかと懸念されているようだ。その事に関しては相澤が彼の理想の強さに起因しており誰よりも"トップヒーロー"を追い求めもがいている、あれを隙と捉えたのなら敵は浅はかであると話していて、も大きく頷いた。そこの心配は全くしていないが、今敵のもとにいる彼がひどい目にあっていないか。それだけが心配である。爆豪のこともそうであるし、耳郎や葉隠は敵のガスによりまだ意識が戻っていないと聞いた。八百万も頭をひどくやられてしまい、緑谷も重傷で入院。言っても仕方のないことだが自分は無傷で保護され、施設に戻ってきた緑谷たちを出来る限り治癒したが今回の襲撃でほとんど力になれていない。悔しくて涙がこぼれそうになるのを何度も飲み込んだ。泣いている場合ではない。



!!!」
「おじいちゃん!?」
「無事か……!!!」
「ぐえっ くるしい……!」



外に警備を置かれ、一室で大人しくしていたの元へ祖父が駆けつけた。事情は粗方聞いていたが目の前にすると無事であった安心と不確定要素だった敵の狙いが確実とされた今、消えない不安につい抱きしめる腕に力がこもる。己を抱き震える祖父には静かに自分の腕も大きな身体にそっと回した。今晩は自身もこの部屋に泊まると、少しして落ち着いた祖父から聞き、ほっと息を吐く。そこではじめて、ずっと緊張状態にあったことを自覚した。夜10時をとうに過ぎ、もう一度ニュースを確認してから就寝しようと祖父とソファに並んでテレビを見れば、そこには見慣れたオールマイトの姿が。そう、見慣れた、本来の姿のオールマイト。え、と音にならない声が漏れる。



『えっと…何が え…?皆さん見えますでしょうか?オールマイトが…しぼんでしまってます……』



ひみつなのだ。オールマイトが過去の戦いにより全盛期の力を出せないことは、活動限界はあることは関係者以外秘密のことなのだ。それがどうして今テレビを通して全国に放送されているのか。思わずそばにある祖父の手を握ればそれ以上の力で握り返される。オールマイトの前には口元以外がのっぺらぼうのような、呼吸器系に何か損傷があるのかチューブなどが繋がれている、スーツの男が立っていた。この敵と、戦っているらしい。この男も敵連合の関係者なのだろうか。緊迫した状態が続く中現場にエンデヴァーたちも到着したようだ。さらに激化する戦い、両者の攻撃が互いにダメージを与える。そして最後の大きな一撃が、敵の頬へ。



『UNITED STATES OF SMASH』



地面に叩きつけられる敵の身体、そこに立つオールマイト。高く揚げられた片腕は勝利の拳だった。力を込めマッスルフォームになったオールマイトに、放送しているキャスターにより勝利宣言が告げられる。



『次は 君だ』



瓦礫に埋もれた市民の救出、元凶となった敵が移動牢へ連れて行かれる様子など場面が移り変わる中、本来の姿に戻ったオールマイトがカメラの向こう、こちらを指さし放った言葉は世間を大いに沸かせた。



「オールマイト……」
「……大丈夫だ 大丈夫」



肩を抱き寄せ擦るあたたかい手に、1人でいるときは抑えられた涙が溢れ出る。その夜はどくどくと鳴る心臓に眠れる気がしなかったが祖父のおかげか泣き疲れたか、気付けば一夜明けていた。皆忙しいだろうに合間を縫って塚内が事の顛末を話しに来てくれたのだ。オールマイトのことはまだ心が追い付かないが、爆豪が無事に救出されていたことは本当に良かった。早く皆に会いたいが、夏休みであるし事の直後で皆それどころではないだろう。も祖父と共に家へ戻った。



「雄英高校 全寮制導入検討のお知らせ?」
「ああ……」



ニュースに取り上げられるオールマイトの引退表明。神野の件ではたくさんのヒーローが動いており、ベストジーニストは一命を取りとめたものの長期の活動休止、プッシーキャッツの1人ラグドールが敵連合に拉致され個性を使用できなくなるという変調があり活動の見合わせとなった。テレビもネットも"神野の悪夢"やオールマイト、ヒーローたちの話で持ち切りである。それらを見ていると雄英からとあるプリントが郵送されてきた。ここに書かれている全寮制導入について家庭訪問があるらしい。



「わーたーしーがー!!ちゃんに会いに来た!!」
「わあオールマイっ どぉ~~~」
「うわ!?大丈夫かい!?」



家庭訪問一発目。雄英から近い家にまずはやってきたオールマイトと相澤なのだが、バーン!といつもの調子で登場したオールマイトを目にしたがだばーっと涙を流した。登場の仕方に「何やってるんだこの人こんなときに」とドン引きしていた相澤もの号泣ぶりに冷や汗を流す。わたわたとを宥めるオールマイトと、どうしたものかと立ち尽くす相澤をの祖父が中に入るよう促した。



「取り乱してすみません……あ、粗茶ですが」
「いやいやこちらこそ! あ、ありがとう」
「すまん」



「オールマイト…よかった…」とまだ瞳を潤ませるが祖父の横に腰を下ろしたところでまずは今回の林間合宿が敵に襲撃され、生徒を危険に晒したことの謝罪をすればがブンブンと手を振る。は、自身は無事であったし平気だと言うがそれはあくまで結果論だ。自分も人も守れるように強くなると意気込むに自然と口元が緩んだが、が良くても祖父はどうだろう。オールマイトは家の事情を知っているので彼は全寮制導入の話を受け入れないかもしれないと思っていた、のだが。



「孫をよろしく頼みます」
「えっあっ 良いんですか、拳治さん……」
「嫌だが」
「アッはい ですよね」
がヒーローになるのを認めた あとは信じて好きにさせる」



が雄英が良いというならそれ以外の選択肢はない」と言い切る祖父に、は嬉しそうに微笑んだ。思いの外スムーズに済んだ話に一先ず息を吐き、オールマイトと相澤は次のお宅へ向かう為家を後にする。はまだ外に出ないよう警察から言われているので見送りはここで良いと玄関で手を振るオールマイトに振り返し、相澤に向き直った。



「先生、会見お疲れさまでした」
「……ああ、」
「髪、くくってるのも素敵ですねえ~!」
「……」



いつもの笑顔で言うをしばし見つめて、ぽんぽんとその頭を撫でる。途端の祖父から鋭い視線が飛んできたのでサッと手を引き、にこにことで手を振るに見送られ次の家へと向かった。こうして、雄英の寮での新しい生活が始まるのである。