合宿二日目の朝5時半。寝ぐせつき放題、まだ覚醒しきっていない生徒がちらほらいる中A組は表に集められていた。
「お早う諸君」
いつもと変わらぬ相澤は本日より本格的に強化合宿を始めると話す。この合宿の目的は全員の強化及びそれによる"仮免"の取得、具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の準備だ。とういうわけで、となんでもさっそくの雄英らしく爆豪に体力テストのときに使用したボールが投げ渡される。あれからどれほど伸びているか、それを目で確かめるのに分かりやすい。入学してからの三か月、色んな事があったので周りの期待も大きく様々に掛けられる声を受け爆豪は位置に着いた。
「んじゃよっこら… くたばれ!!!」
発せられる言葉は以前とあまり変わりはないが、どうだろう。相澤の持つ計測器に表示される数字は709.6m。前回と比べると4mほどの差しかなくその結果に戸惑いがみえた。確かに成長はしているがあくまでも精神面や技術面、多少の体力的な部分がメインで"個性"そのものは今の通りそこまで成長していない。だから、と相澤が口角を上げる。
「今日から君らの"個性"伸ばす 死ぬ程キツイがくれぐれも…死なないように――…」
酷使して壊れ、強く太くなる筋繊維と同じように"個性"また使い続ければ強くなるのだ。すなわちこれからやるべきことは限界突破。許容上限のある発動型は上限の底上げの為"個性"発動し続け、異形型・その他複合型は"個性"に由来する器官・部位のさらなる鍛錬を。B組も含めて総勢41名を管理するためにプッシーキャッツがいるここを合宿所に選んだのだ。個々の情報や弱点をラグドールが"サーチ"してピクシーボブがそれに合わせて鍛錬に見合う場所を形成する。そしてマンダレイの"テレパス"で一度に複数名へのアドバイスを行うことで効率的に進められるというわけだ。虎は単純な増強型の者の筋トレを担当している。
はといえば、異形・複合型に当てはまるので蛙吹や障子たちと似たような鍛錬内容となった。ユキヒョウの跳躍力を鍛えるのと、治癒を使うための根本的な体力向上。ひたすらトレーニングである。それから訓練中何かしら傷を負った者の治癒、限界を超えユキヒョウ化してしまっても戻れるようになったらすぐに鍛錬再開するように言われており文字通り限界を超えざるを得ないメニューだ。それぞれ限界に挑戦し続け気付けばもう夕方4時。
「さァ昨日言ったね「世話焼くのは今日だけ」って!!」
「己で食う飯くらい己でつくれ!!カレー!!」
用意された大量の野菜やカレー粉、お米に全員力なく返事をする。
「アハハハハ全員全身ブッチブチ!!だからって雑なネコマンマは作っちゃダメね!」
「確かに…災害時など避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも救助の一環……」
「さすが雄英無駄がない!!世界一旨いカレーを作ろう皆!!」と張り切る飯田にA組一同は震える腕をあげた。作り出してからは順調で、各自やれることを率先して行っていく。特に爆豪や轟は火を起こすのに重宝されていた。調理に使えそうな個性ではない
は野菜を切り終えた後芦戸、麗日と炭の準備をして轟に声を掛ける。
「轟ー!こっちも火ィちょーだい」
「おねがいします~!」
八百万が人の手を煩わせてばかりでは、と窘めるが轟本人が構わないとそれを止め炎を出した。
「わー!ありがとー!!」
「さすが轟くん、調整ばっちりだあ」
「燃えろー燃やし尽くせー!」
「尽くしたらあかんよ」
そうして出来上がったカレーは絶品と言うわけでもなかったが疲れ切った身体と、皆で作ったという状況も相まって一同ペロリと平らげてしまう。補習組を除いて通常就寝は夜の10時、お風呂に入って寝るだけなのだが。明日も朝から厳しい鍛錬が待ち受けているしそもそもあれだけ動いた後なので昨日ほどお風呂を楽しむ余裕もなく各自洗うだけ洗ってぬくもり、ふらふらと自分の布団に倒れ込んだ。
「とらんぷ…したい…」
「そんな元気ない…」
「ちょっとだけ…」
「寝落ちする自信しかない…」
「
ちゃんもう寝てるわ」
「はやっ」
「おやすみ3秒」
「…ねよ」
「…そやね」
三日目も引き続き各自個性の強化を目的とした鍛錬をしていたのだがお昼ごろ、教師陣から一喝をいただいた際ピクシーボブに今晩はクラス対抗肝試しを決行すると告げられテンションが上がる者が数名。気力は少し取り戻し夜に向けて励んだ。肝試しの前に腹ごしらえ、本日の献立は肉じゃがである。今回も野菜担当になった
はご機嫌に人参やジャガイモの皮をむいていた。
「ふんっふん~っ」
「(鼻歌うたってるカワイイ)」
「(尻尾がリズムに合わせて揺れてんだよな~)」
「(横にいる爆豪に当たってんだよな~)」
「剥いたやつから寄越せ」
「はいっ」
言われた通り人参たちを渡していくと素晴らしい包丁さばきで次々と切っていく。
「爆豪くん包丁使うのウマ!意外やわ…!!」
「意外って何だコラ包丁に上手い下手なんざねえだろ!!」
「出た!久々に才能マン」
「ええ多分あるよ~ 爆豪くんは器用だねえ」
「…お前も普通にできてんだろが」
「え?へへ、やった!爆豪くんに褒められた!」
今のは褒めてると言えるのか分からないがまあ相手は爆豪だしそう捉えていいんかな。喜んでいる
に麗日、上鳴はほっこりした。自炊二日目にして役割分担に慣れたのか昨日よりもスムーズにできあがり皆で美味しく頂き、皿洗いまで終わらせるとピクシーボブが笑顔を見せる。
「腹もふくれた皿も洗った!お次は…」
「肝を試す時間だー!!」
「その前に大変心苦しいが補習連中は…これから俺と補習授業だ」
「ウソだろ!!!!」
「ええっ」
「そんなああ
ちゃああああん」
「三奈ちゃああああん」
相澤の拘束具に縛られ引き摺られていく芦戸たちを涙ながらに見送り、気を取り直してルールの説明を受けた。脅かし役はB組先攻ですでにスタンバイしているらしい。こちらは二人一組で3分置きに出発、所要時間およそ15分のルートを進み折り返し地点にある各自名前の書かれた札を持って帰ってくること。脅かす方は直接接触禁止で"個性"を上手く使った脅かしネタを披露する。より多くの人数を失禁させたクラスが勝者だとポーズを決める虎に耳郎が「やめて下さい汚い……」と非難した。組み合わせは平等にくじ引きで、
は緑谷とだった。よろしくと声を掛けると少し緊張した様子で頷く彼の後ろから物凄い顔をした爆豪が近寄ってくる。爆豪は轟とになったようだ。
「緑谷くんよろしくね!」
「アッウン、よ、よろしく…」
「誰がコイツと…オイデク…代われ…!!!」
「ズリィぞ爆豪!緑谷オイラと代わってくれよォ…」
「エッ!?エッ!?」
「アハハそれじゃあくじの意味ないよ~」
が笑って言ったのと同時にピクシーボブから一組め出発の合図が出される。最後まで嫌がっていたが3分後、爆豪も轟と森の中へ入って行った。そして5組め、麗日と蛙吹が出発。森からは数人の悲鳴がスタート地点まで届いてきている。B組の脅かしはなかなかのクオリティのようだ。麗日たちが行って少し、何やら辺りが焦げ臭くなってきた。その場に待機していたメンバーがそれに気づいたとき、森から黒煙があがっていることも分かり警戒態勢に入ろうとした瞬間。突如現れた敵によりピクシーボブが地面に倒れる。
「飼い猫ちゃんはジャマね」
「何で…!万全を期したハズじゃあ……!!何で…何で敵がいるんだよォ!!!」
「ピクシーボブ!!」
「やばい…!」
楽しい雰囲気は一転。目の前に立つ二人の敵に、峰田の叫びに、緊張が走った。