「アッハッハッハマジか!!マジか爆豪!!」
1週間に亘る職場体験を終えた翌日、すっかり怪我も治った
が教室に入ると何やら楽しそうな笑い声が聞こえてきた。蛙吹たちに挨拶をしながら自分の席を目指し進んでいくと切島、瀬呂がひーひーと眼に涙を浮かべるほど大笑いしている。2人の後ろまで来たところでその奥にいる人物も視界に入り
はあれ、と首を傾げた。
「爆豪くん?」
「ア"…!?」
「ヒィー!!
見てみ!!クセついて直んねえんだって!!」
「うん?イメチェンじゃないんだね?」
「ブッ!!」
「おい笑うなブッ殺すぞ」
「やってみろよ8:2坊や!!アッハハハハハハ」
「ブッ殺す!!!」
ボンッという爆発音とともにぴったり8:2で固められていた爆豪の髪型がいつものものに戻る。なんだかよく分からないが初めて見るスタイルに、悪くないと思った
は残念そうな声を上げた。
「戻っちゃった…」
「ブフッン"ン!どした?
は8:2坊やのが良かった?」
「ンブフッ」
「いい加減にしろやァ…」
「ううん、さっきのも良いけどやっぱりいつもの方がかっこいいね!」
「ヒエッ」
「でた
節…!」
節とは。自分の名前が使われているが変わったことを言ったつもりのない
にはどういう意味か分からず頭を捻りながら席に着くと轟の席に緑谷、飯田が集まっておりその周囲では先日の一件について話していた。当然だが皆ニュースを見たようで、以前学校に襲撃してきた敵連合とも関りがあったと報道されたヒーロー殺しに尾白などはもし襲撃の際来ていたらと思うとゾっとすると冷や汗を流す。それに対して上鳴が同意しつつも出回っている動画を見るとあの執念にかっこよさを感じたと話すがそばで聞いている飯田を気遣い緑谷が窘めた。
「上鳴くん…!」
「え?あっ…飯…ワリ!」
「いや…いいさ 確かに信念の男ではあった…クールだと思う人がいるのもわかる」
反射的に口元を覆う上鳴だったが飯田は彼の意見を素直に受け入れている。ただステインは信念の果てに選んだのが粛清という手段で、そこは間違えてはいけない。自身のような者をこれ以上出さぬ為にも改めてヒーローへの道を歩むと高々に宣言した飯田は、だいぶと気持ちの切り替えができているようで席に戻っていく姿を見送りながら一安心していると斜め前にいる轟が顔だけ振り返った。
「身体平気か?」
「うんすっかり!轟くんは心配性だねえ」
退院して事務所に戻ってからも何度かこうして声をかけてくれている彼に有難さを感じると同時にそんなに自分は弱そうに見えるのだろうかと笑みを零す。こちらとしてはあの場で奮闘した3人のほうが大事ないか気になるのだが。お礼を言いつつ轟も大丈夫か尋ねると問題ないと小さく頷いて前へ向き直った。
「ハイ私が来た ってな感じでやっていくわけだけどもね」
この日の午後のヒーロー基礎学はオールマイトのヌルっとした登場で始まり、「元気か!?」と仁王立ちするNo.1ヒーローにパターンが尽きたのかなどと所々から厳しい突っ込みが入る。今回は職場体験直後ということもあり遊びの要素を含めた救助訓練レースを行うこととなった。複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯を再現している運動場γにて5人3組、6人1組に分かれ1組ずつ街のどこかから出される救難信号を合図にオールマイトを助けに行く競争だ。
「もちろん建物の被害は最小限にな!」
「指さすなよ」
ススススと流れるような動作で指を向けられた爆豪はバツが悪そうに視線を逸らした。何事もさっそくの雄英らしく、初めの組である緑谷・尾白・飯田・芦戸・瀬呂が位置につき残る生徒は見学の態勢をとる。怪我が完治していない飯田を心配する声もあがる中1組目はクラスでも機動力が良い面子が揃っているためトップ予想で盛り上がっていた。
「俺瀬呂が一位」
「あー…うーん でも尾白もあるぜ」
「オイラは芦戸!あいつ運動神経すげえぞ」
「デクが最下位」
「ケガのハンデあっても飯田くんな気がするなあ」
皆の意見(若干一名最下位予想)を聞いていると麗日の予想に頷いた蛙吹から「
ちゃんはどうかしら?」と話を振られこれまでなら飯田だと即答しただろうが、と保須の一件の時の記憶が頭を過る。
「うーん…飯田くんか緑谷くんかなあ」
「あら緑谷ちゃんも?」
「うーん」
緑谷の名前を出した途端後ろでデカい舌打ちが鳴ったがそれと同時にスタートの合図が出され一斉に動き出した。テープを放ち建物の上へ飛んだ瀬呂の姿に切島がホラ見ろと口角を上げる。やはり滞空性能の高い彼がトップかと思っているとその先を行く意外な影が。
「おおお緑谷!?何だその動きィ!!?ッソだろ!!」
「すごい…!ピョンピョン…何かまるで…」
ダンダンと建物を足場に跳躍する緑谷に皆驚き、爆豪は焦燥感に駆られた。そして
は興奮でブンブンと揺れる尻尾を前で抑え込みつつ先ほど思い出していた記憶に間違いはなかったと目を輝かせる。あの時はステインからどう逃げるか、どう時間を稼ぐかなど別のことに意識を向けていたが緑谷は明らかに変化していたのだ。使う度骨折していたリスキーな超パワーを調整できるようになっている。レースの結果は最終的に瀬呂がトップで、緑谷は途中足を滑らせ落下してしまったのだが何度もリカバリーガールの治療を受ける彼を心配していた
にとって嬉しい変化だった。
残る4組も順調に終え更衣室に戻った女子たちは当然ながら訓練の話に花をさかせる。
、蛙吹は跳躍力に自信があるが、どうしても飯田たちのようにはいかない。芦戸はもともとの運動神経の良さプラス酸の個性を。麗日、八百万もそれぞれ個性を上手く使っていた。葉隠と耳郎は今回のような場所での、それも競争となると不利だっただろう。
「やっぱ何といっても緑谷でしょ!」
「そうね、すごかったわ」
「職場体験で良い指導を受けられたんですね…」
「骨折克服だね!」
朝はあまり聞けなかったが耳郎は交戦こそなかったが敵退治に行ったようで、蛙吹も隣国の密航者を捕らえたらしい。麗日もバトルヒーローのもとでみっちり鍛えられ動きに変化がでていた。
自身もエンデヴァー事務所の相棒たちと手合わせをしてもらったり予期せぬ実戦経験も積むことができたし、各々ヒーローへの道を進めているのだろう。
「
ちゃんはエンデヴァー事務所だったのよね?」
「うん、あらゆる面ですごかった!」
「てかコスチューム変わってない!?」
「だよね!?かわいい!!」
「ありがと~!」
「そんでさー…」
「ん?」
芦戸、葉隠がズイっと
に顔を寄せる。
「轟と何かあった!?」
「轟くん?」
「ラブハプニングとか!!」
「きゃー
ちゃんのえっち!」
「エッ!?ないよ!?何で!?」
「割と最初のころから仲良さげだし」
「お昼とかよく一緒に食べてるし」
2人の勢いを手で制しながら首を振るが、横で「ウチもちょっと気になってた」と呟く耳郎に情けない声が漏れた。仲良くしてもらっている自覚はあるが周りから見るとそうなるのか。
「他にも気になるペアはいるんだけどね!!」
「
ちゃんラブじゃないのかよー!」
「アハハ…」
「ケロ、2人ともそのくらいにしておきましょ」
「ちぇー!」
恋バナに飢えていると声を揃える芦戸、葉隠はかと思えばもうすでに別の話題に移っていた。女の子だなあ、とほっこりしながら着替えの手を進めていると隣の男子更衣室がやけに騒がしくなる。
「オイラのリトルミネタはもう立派なバンザイ行為なんだよォォ!!」
随分とはっきり聞こえる叫びに全員が身体を揺らした。
「八百万のヤオヨロッパイ!!芦戸の腰つき!!葉隠の浮かぶ下着!!
のしなやか曲線美!!麗日のうららかボディに蛙吹の意外おっぱアアアア」
ドックンという爆音が鳴り響き峰田の欲望丸出しの言葉が止む。どうやら更衣室の壁に小さな穴があいていたようでそこから覗きをしていたらしい。
「ありがと響香ちゃん」
「何て卑劣…!!すぐにふさいでしまいましょう!!!」
見事イヤホンジャックを命中させた耳郎と穴をふさぐ八百万に感謝する。それにしても静かにしていれば気づかれなかったものを、自らその存在を知らしめるとは。これぞ正しく自滅だなと
は苦笑した。そして一日の授業が終わり、最後のHRで相澤からそろそろ夏休みも近いが、と話を切り出される。
「もちろん君らが30日間一か月休める道理はない」
「まさか…」
「夏休み、林間合宿やるぞ」
「知ってたよ――やった――!!!」
「肝試そ――!!」
「風呂!!」
「花火」
「風呂!!」
「カレーだな…!」
「行水!!」
「自然環境ですとまた活動条件が変わってきますわね」
「いかなる環境でも正しい選択を…か 面白い」
「湯浴み!」
「寝食皆と!!ワクワクしてきたああ!!」
風呂のことしか考えていない性欲の権化を抜きにしても皆林間合宿を相当楽しみにしていたようで浮き立つ様子に「ただし」と釘を刺された。
「その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は…学校で補習地獄だ」
「みんな頑張ろーぜ!!」
そう、合宿が夏休みに行われるということは先に生徒ならできれば耳にしたくないと思う者も少なくはないだろう期末テストが待っている。偏差値の高い雄英なので皆それなりの成績をもって入学したわけだが、だからこそ一筋縄ではいかない。ヒーローを目指すにあたって実感した己の課題のためトレーニングに力をいれているが、学生の本業である勉強も見直さなくてはと
は気合を入れなおした。