『さーて第二種目よ！！私はもう知ってるけど～～～…何かしら！！？言ってるそばからコレよ！！！！』
スタジアムに映し出される騎馬戦の文字。体育祭本選・第二種目の騎馬戦は、参加者で２～４人のチームを自由に組み各自に振り分けられたポイントを稼ぐ方式のようだ。与えられるポイントは先ほどの結果に従い４２位が５ポイントで、順に５ポイントずつ足されていき１位だけは例外の１０００万ポイントが振り分けられる。上位の者ほど狙われるサバイバル下克上だというミッドナイトの言葉に、１位の緑谷へ視線が集まった。
「緑谷くん大変だあ～…」
「皆が取りたい１０００万…チーム組むのも楽じゃないだろうね」
チームの持ちポイントは個人に振り分けられたものの合計となり騎手がそのポイント分のハチマキを装着。個性発動アリで、ハチマキを取られても騎馬が崩れても制限時間内ならアウトにはならず、終了までハチマキを奪い合うというルールだ。１５分間のチーム決め交渉タイムが設けられそれぞれが動き始める。リカバリーガールが言った通り着々とチームが決まっていく中緑谷は苦戦しているようだった。
「参加するとしたら誰と組む？」
「難しい…やっぱりある程度個性が分かってるクラスの子？」
「
ちゃんはスピードはいいとしても攻撃力が足りないね」
「本当に……やっぱり爆豪くんかなあ」
「３位の子かい？実際人気だよ」
「ウワッ私の個性じゃ爆豪くんに選んでもらえないなあ…！」
他の子たちも魅力的な個性を持っているので結局決めかね自分の個性を求めて誘ってくれる人がいたらその人と組むだろうなと
が自己完結したところでちょうど交渉タイムが終わる。何とか緑谷もチームが組めたようで麗日・常闇、サポート科の発目と一緒にいた。プレゼント・マイクのカウントダウンにより１５分間の騎馬戦がスタート。それと同時に２組が緑谷チームを狙うが、サポート科のアイテムと常闇の個性で上手く躱した。数分も経たずに早くも各所でハチマキの奪い合いが行われている。緑谷チームは休む間もなく次から次へと襲い掛かる周りから何とか逃げ切っている状態だ。
『やはり狙われまくる１位と猛追をしかけるＡ組の面々共に実力者揃い！現在の保持Ｐはどうなってるのか…７分経過した現在のランクを見てみよう！』
各チームのポイントと順位を見ると予想に反してＡ組はトップの緑谷チーム以外パッとしない状況で、爆豪チームのところに至っては０ポイントと表示されている。緑谷を狙う彼の隙をついてＢ組の物間に奪われてしまったようだ。そして残り時間半分を切ったところで緑谷チームの前に轟チームが立ち塞がる。ここからだ、というところで出張保健所に生徒が運ばれてきた。
「
ちゃん見ててもいいよ」
「いえ！ちゃんと働きます！」
「じゃあ頼んだよ」
何だかんだで１年のところばっかり観てしまっていたが２、３年ステージもしっかり盛り上がっているらしい。ちらほらとやって来る生徒たちの治療に専念する。大きめの怪我はリカバリーガールに対応してもらいできる範囲のもの治して、全員が帰って行ったところでほっと一息吐いた。モニターに目をやるとすでに騎馬戦は終了したようで、上位４チームの最終種目進出が発表されている。轟チーム、爆豪チーム、心操チーム、そして緑谷チームが残っているのを見て
は表情を明るくした。
「Ａ組が結構残ってるね」
「はいっ皆さすがです！」
一時間程昼休憩挟んでから午後の部だという放送を聞き持ってきた手提げを漁る。自分のお昼ご飯は祖父が作ってくれたものがあるのだが、実は前日にお手伝いさんに一人分頼んでいたのだ。
「そんなに大食いだったかい？」
「これは相澤先生に……お節介だけど…」
「おやま、いいじゃないさ しっかり食べさせないとね」
「うん！渡してきます！」
「良い天気だし
ちゃんも外で食べといで」
「はーい！」
食事はゼリー飲料で済ませてしまうことが多いと聞いて用意したものの今日は違うかもしれないし、どこかへ行ってしまって入れ違いになるかもしれないので急いでプレゼント・マイク、相澤のいる放送室まで行くとちょうどノックするタイミングで扉が開き中から人が出てきた。
「お？ユキヒョウちゃんじゃねーか」
「マイク先生！」
「どーした？何かあったか？」
「あっ相澤先生に……」
「イレイザーなら寝るって「起きてる」起きてた！」
「どうした
」
「先生会えた～！あの、これ！」
さっとお弁当の包みを差し出す
に首を傾げる相澤はとりあえずそれを受け取る。マイクは横でヒュ～っと軽く口笛を吹きながらにやけた顔で見守っていた。
「弁当？」
「時間勿体ないかもしれないですけど…まだ包帯も取れてないし、」
「……」
「お肉とかも食べた方が…」
「ああ…ありがとうな」
「良かったなイレイザー！」
「お前は早く行け」
睨まれるも軽口を返し
に手を振って出て行くマイクを、同じように手を振り見送る。
「あ、スプーンとフォークで食べれるものにしてもらったので！」
「悪いな……お前が作ったんじゃないのか」
「家のお手伝いさんです！腕はたしかですよ～！」
「そうか…」
では、と小さく下げられたその頭にポンポンと包帯で包まれた手を乗せると分かりやすく破顔した
。余計なことをしているだろうと不安げだった様子も相澤がお弁当を受け取ってくれたのでなくなり、にこにことその場を後にした。リカバリーガールに外で食べておいでと言われたものの、あまり目立った場所では食べられない為どこへ行こうかとウロウロしていると少し先で壁に背を預けて立っている爆豪の姿を発見する。自分のお重の量を思いちょうどよかったと爆豪に近づいていくと、彼を呼ぶ前に姿は見えないが轟と緑谷が話している声が聞こえてきた。
「個性婚 知ってるよな」
そう言ったのは轟で、
は一瞬足が止まる。その気配を察知したのか爆豪がこちらへ顔を向けた。個性婚とは、強い『個性』を子に継がせるための結婚のことである。超常が起き特異体質を持つ人が現れだし、第二～第三世代間で問題となった自身の個性をより強く子供に受け継がせるためだけに優れた配偶者を選び結婚を強いるという、謂わば政略結婚に近い形のものだ。それを己の父親が行ったと語る轟の言葉を聞きながら静かに爆豪の方に足を進め、隣に並んで彼のように壁に背を預ける。本当ならば耳に届かない場所へ移動すべきなのだろうが、だめだと思うも踵を返せなかった。
「「お前の左側が醜い」と母は俺に煮え湯を浴びせた」
轟の顔の痕はそういうことだったのか。彼の父親はオールマイトに次ぐNo.2のエンデヴァーだ。炎の個性を持つエンデヴァーはそれではNo.1の座に届かないから氷の個性を持つ人と結婚し、子供をオールマイト以上のヒーローに育て上げようとしているということか。
は眉を寄せ唇をきゅっと結ぶ。
「ざっと話したが俺がお前につっかかんのは見返す為だ クソ親父の"個性"なんざなくたって……いや…使わず"一番になる"ことで奴を完全否定する」
少なくとも
が聞き出したあたりからは緑谷は黙っていたが、「時間とらせたな」と足音がするので恐らく歩き出した轟に口を開く。オールマイトに憧れる緑谷は、そうなる為には１番になるくらい強くなきゃいけないと零した。そして自分を救けてくれた人たちに応える為にも。
「さっき受けた宣戦布告 改めて僕からも…僕も君に勝つ！」
それきり２人の声は聞こえなくなり足音も遠のいていった。ちら、と爆豪の方に目を向けるとちょうど相手もこちらを見ておりバチッと視線が合う。一瞬の間の後、
は手提げの中を爆豪に見えるように開いた。
「ご飯一緒に食べてくれませんか？」
「……んだその量」
「おじいちゃんが作ってくれたんだけど食べ切れそうになくて…」
「…どっか座れるとこ行くぞ」
「！ うんっ！」
静かなほうへ、と耳を頼りに探していると人気の無い穴場を見つけ草の上に腰を下ろす。胡坐をかいた爆豪は目の前で手提げからお重を取り出して準備をしている
を眺めていた。
「爆豪くんと会えてよかったよ～ はいお箸！」
「ん」
「いただきます！」
「…いただきます」
おにぎりと、から揚げやハンバーグ、たまご焼きにトマトやブロッコリーなどの野菜。バランスや色合い良く、いっぱい考えて作ってくれたんだろうと祖父を思い胸がほっこりと温かくなる。爆豪も無言だが、どんどん箸を進めているところから見て味も問題なさそうだ。黙々と食べ続け、３分の１ほどお腹に収めたあたりでもう
のほうは限界である。やはり一人で食べようとしなくて正解だった。あと少し残っている分を食べている爆豪の紙コップにお茶を注ぎ足しておく。誰かと食べれたら良いなと思い予め出張保健所の紙コップをもらっていたのだ。
「そういえば爆豪くん、」
綺麗に全部無くなり「ゴチソーサマ」とお茶を飲んでいる爆豪は目で先を促す。
「入学初日の、個性把握テストのとき何か言いかけてなかった？」
「……今更かよ」
「ずっと聞こうと思って忘れてた…」
紙コップを置きじっと何かを考えるように見てくる爆豪を見つめ返し
はこてん、と首を傾げた。
「…昔、山で崖から落ちた子供助けたことあるか」
「山？うん、あるよ」
「それ確かめたかっただけだ」
「そうなの？えっ…爆豪くんだった？」
「俺じゃねーわ」
「たまたま見かけただけだ」と言う爆豪になるほどと頷く。自分も当然今よりずっと子供だったのだが、両親と共によく色んな山に行って特訓をしていた。一度だけ、登山客の子供が崖から転がり落ちて来たのを下から見つけた
はユキヒョウになって駆け登り背中で受け止め、上で子供の名を叫ぶ両親のもとまで連れて行ったことがある。まさかそれを爆豪が見ていたとは。どうりでこの間ユキヒョウの姿になったときまじまじと観察されたわけである。縁とは不思議なものだなあと
は目を細めた。話している間に昼休憩も終わる時間が近づき、お重を片付けスタジアムに戻る。分かれ道に差し掛かったところで一歩前を歩いていた爆豪が突然振り返った為顔をぶつけてしまう
。
「んぶっ あっごめん！」
「オイ」
「はい？」
「分かりやす過ぎんだよてめーは」
「えっ」
胸に飛び込むような形になった
の腰を片手で支え、尻尾を指さす。轟と緑谷の話を聞いた後からずっとだらんと下がったままのそれ。関係のない話をしようと、どれほど顔が笑っていようと、尻尾を見れば何を考えているまでかは解らないが気落ちしていることはよく分かった。
「俺が勝つ」
見下ろす赤い瞳の鋭さに息が詰まる。早く何か返さなければと口を動かすが声になる前に身体を離しそのままさっさと早足で戻って行く爆豪に少し遅れて「見てるね！」と後ろから叫ぶと
も出張保健所へ戻る。
『どーしたＡ組！！？』
プレゼント・マイクの言葉が響き、モニターを見ていた
もぽかんと口を開く。昼休憩終了後、最終種目を行う前に全員参加のレクリエーション種目もあると発表されたのだが、なぜかＡ組の女子が皆チアガールの姿で登場したのだ。
「何やってんだいあの子たち」
「えっかわいい！いいなあ～！」
「
ちゃん…好きだねえあんたも…」
「皆似合ってますねえ」
レクリエーション種目が終われば最終種目。進出した４チーム総勢１６名からなるトーナメント形式で行う一対一のバトルだ。先に組み合わせのくじ引きをするようでミッドナイトが箱を用意する。ちなみにこの１６名に関してはレクリエーション種目は参加自由らしい。１位のチームから順にくじを引くとなったとき３位の心操チームにいた尾白が手を挙げ辞退すると言い出した。周りのＡ組選手は彼を止めたが意志は固く、続くようにＢ組庄田も同じ理由で棄権を希望。それを主審判断で許可され、結果繰り上がりで色々ありＢ組鉄哲と塩崎が最終種目に出場することになった。
『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間 楽しく遊ぶぞレクリエーション！』
大玉転がしや借り物競争などで盛り上がる中、トーナメント参加者はそれぞれが自身のやり方で準備を整える。色んな思いを胸に、いよいよその時。セメントスの手で勝負の場が作られ、プレゼント・マイクの声がスタジアム中に広がる。
『色々やってきましたが！！結局これだぜガチンコ勝負！！』
ルールは至ってシンプル。相手を場外に落とすか行動不能にするか"まいった"と言わせることができたほうの勝ち、怪我上等だが命に関わるようなものはアウト。いつでも止められるようにセメントスがそばに控えているようだ。一回戦は緑谷と、普通科の心操の対決。向かい合う２人をモニター越しに見つめる。心操は前にＡ組に宣戦布告に来た生徒の一人で、実は体育祭までの２週間の間に彼と話すことがあった。個性についても聞いており、ヒーローを目指すその気持ちも知っている。
は胸の前で手を握りしめた。
『そんじゃ早速始めよか！！レディィィィィイ ＳＴＡＲＴ！！』
その合図と同時に飛び出そうとした緑谷の動きが完全に止まる。驚く周囲と、「あちゃあ、」と思わず声を漏らす
。心操の指示に従いくるりと振り返って緑谷は場外を目指し足を進めていた。個性"洗脳"。その気になった心操の問いかけに答えたものは洗脳され彼の言いなりになってしまう、かなり強力な個性だ。
も味わったことがあるが自力では解けなかったし、緑谷も難しいだろうかともうすぐ降りるというところまで歩いている様子を見守る。もうだめかと思ったところで緑谷の個性が暴発したのか、させたのか、指を怪我しながらもその場に留まった。
「～～～…！指動かすだけでそんな威力か 羨ましいよ」
口角をあげつつも苦しそうな表情で"個性"について訴える叫びに、
の心も鷲掴まれたように痛む。勢い良く駆け寄り心操を押し出すように肩を掴んだ緑谷はもう問いかけには答えない。このまま肉弾戦へと移るのかと思いきや勝負は緑谷の背負い投げにより心操の身体が場外へ出たことで終わりを迎えた。
『二回戦進出！！緑谷出久――――！！』