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「今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイトそしてもう一人の3人体制で見ることになった」



PM0:50。この日の午後の授業、ヒーロー基礎学では災害水難何でもござれの人命救助訓練のようだ。前にやった対人戦闘訓練とはまた違った難しさがある。とはいえ人を助ける、というのはヒーローの本分。授業内容を告げられた生徒たちは己の個性の使い方などを考え少しざわついたが相澤のまだ話の途中だという一睨みを受け口を閉じる。今回コスチュームの着用は人によっては活動を制限するものもあるので各自の判断に任せるということだった。それぞれが準備を開始し、更衣室へ移動する。どうやら女の子は皆コスチュームを着るようで、は改めて皆の格好をじっくり見た。「個性」のことを踏まえたで好みのデザインというのもしっかり考えられていそうだな、と感心しているとそのあまりの凝視に相手も気になったのだろう、のほうを振り返る。



「あのさ、何かついてる?」
「え?」
「いや、めっちゃ見てるから」
「ねー!そろそろ穴開きそう」
「あっごめん!2人とも格好いいコスチュームだからつい!」



すごく似合っていると微笑むに熱い視線を受けていた2人は、照れたように視線を逸らし頬を掻いたり笑顔を浮かべて元気にお礼を言ったりとそれぞれの反応を見せた。



「つか、ちゃんと話すの初めてだよね?」
「それね!私ずっとさん狙ってたんだよー!」
「狙う」
「えっと、耳郎さんと芦戸さんであってる?」
「うん、そう」
「三奈って呼んで!」
「えへへ、三奈ちゃん~」



名前で呼ぶように言った芦戸は両手を上げて喜ぶ。それに耳郎も「ウチも」と小さく零したので彼女とも名前で呼び合うことなり、そのまま3人で話しながら着替えを終わらせたところでの身体に軽く何かがぶつかるような衝撃が走った。見えないがぶつかったそれがくっついている感覚がある。首を傾げているとすぐ近くで女の子の声が聞こえた。



「ずるい!私もちゃんと仲良くなりたーい!」
「あ、葉隠さん?だ?」
「ピンポーン!葉隠透だよー!」
「透ちゃん!」
「キャーちゃーん!」



入学してから数日、クラスに自分を含め7人しか女の子はいないがまだ八百万と蛙吹としか会話らしい会話をしていなかったは一気に3人と話すことができたのでゆるゆると頬を緩める。残るは麗日だけとなったのでせっかくならと周りを見回したがもうすでに更衣室を出てしまったようだ。訓練場は少し離れた場所にあるらしくバスで移動すると相澤が言っていたのでたちも外へ向かう。バスが停車しているところへ行き21人そろったのを確認すると飯田が席順でスムーズにいくよう出席番号順に二列で並ぼうと皆に声をかけ、は最後尾に並んだ。前の方が乗り込んだあたりで何やら騒いでいたようだが、ぞろぞろと動く列に続いて進んでいく。ステップに足をかけたところで飯田が落ち込んでいる姿が見えざっと中に目をやった。なるほど、このバスの座席は飯田が想像していたであろう二列のクロスシートではなく、ロングシートもあるセミクロスシートタイプらしい。前側の座席はもう埋まってしまっているのでは後ろを目指しながら途中、俯く飯田の肩にポンと手を乗せて一声掛ける。



「スムーズに乗れたことに変わりはないよ、ありがとう飯田くん!」
「!!! くん…!!!」



にこっと微笑んで奥へ進んでいく彼女は近くに座っていた上鳴・切島・砂藤に「(え、天使かよ)」と思われているとは露知らず、空いている席を探していた。すると奥から彼女の名を呼ぶ声が。



!後ろ来てくれよぉ!」
「んん、せっかくだけど私が座ったらぎゅーぎゅーになっちゃうよ」
「大丈夫オイラを膝に乗せてくれれbンぐッ」
「コイツのことは気にすんな!前あいてるぜ!」
「あ、ほんとだ 轟くんお隣いいですか?」
「おお」



峰田の口を塞いだ瀬呂の言う通り最後列の一つ前の席は壁側に轟が座っているが通路側が空いていた。彼に一声かけ腰を下ろす。隣に座るのを横目で確認した轟は「寝る」と呟いて目を閉じた。それに小さく「おやすみ~」と返し、も前を向く。前側のロングシートタイプの席に座っているメンツが何やら盛り上がっているようだ。それぞれの個性の話をしていたのか切島が派手で強いといえば爆豪・轟だと言っているのが聞こえ、内心頷く。から見てもやはりクラスで強いのはと考えると今現在ではその2人だ。個性の扱いに慣れているようだし近接攻撃だけでなく遠距離にも対応ができるのは大きいだろう。



「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」
「んだとコラ出すわ!!」
「ホラ」



蛙吹の言葉に身を乗り出して怒鳴る爆豪を、上鳴がクソを下水で煮込んだような性格だと評しているがそれには首を傾げる。確かに今のように声を荒げる姿はよく見られるが静かで冷静なところもあるし、彼らが言うほどひどくはないとは思っていた。少し腰を浮かせ耳郎がいる前の席の背もたれに手をかけ顔を覗かせる。



「爆豪くん強いしかっこいいから人気出ると思うよ!」
「っハア!?」
「まじか…」
って天使なん?」
ちゃんのほうが人気出ると思うわ」
「うんうん」



が会話に混ざりさらに盛り上がりをみせたが相澤の「もう着くぞいい加減にしとけよ…」という低い声に皆居住まいを正し大人しく従った。

到着した大きな訓練場。その中は入り口付近から全体を見回してもすべてを把握しきれそうにはなく、水難事故・土砂災害・火事などあらゆる事故や災害を想定し作られているらしい。アトラクションもびっくりの設備に生徒たちはUSJかよと声を上げる。ここで待っていた本日の基礎学を相澤・オールマイトとともに担当するスペースヒーロー13号が「その名も……ウソの災害や事故ルーム!!」と自身が作ったこの建物を紹介した。まさにUSJだった。



「災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」
「わ――私好きなの13号!」



生徒たちが13号の姿に興奮している中、相澤と13号はオールマイトについて話していた。聴力が人より優れているは可聴域が広いだけでなくある程度の距離なら本人が意識すれば小さな声も聞き取ることができるため、申し訳ないと思いながらも先生2人の話に耳を向ける。平和の象徴の身体のことをは昔聞かされていた。そのことで亡き祖母から頼まれたことがある。傷を負ってから時間が経ちすでに処置を施されている以上過去のそれを完治させることはにはできないが、これから負う傷なら。決して無理はできない彼の、できる範囲で良いから力になってほしいと祖母は言った。も言われずとも、大好きなヒーローの一人である彼のことを思っている。2人の話によればギリギリまで活動したとのことだが怪我をしたというわけではなさそうなのでほっと息を吐いた。「仕方ないはじめるか」と生徒たちに目を向ける相澤に、13号がその前にと口を開く。



「皆さんご存知だとは思いますが僕の"個性"は"ブラックホール" どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その"個性で"どんな災害からも人を救い上げるんですよね」
「ええ…しかし簡単に人を殺せる力です」



話を続ける13号に一同は口を噤んだ。彼だけでなく他のプロヒーローも、プロヒーローを目指す生徒たちも。使いようによっては、一歩間違えれば、容易に人を殺せてしまうのだ。皆そうして言葉で伝えられ改めてその事実を実感する。入学初日、相澤の個性把握テストで己の力の可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験した。そして今日、この授業で人命の為にそれぞれの"個性"をどう活用するのか。皆の力は人を傷つける為にあるのではないという言葉に生徒たちの口角がきゅっとあがる。



「救ける為にあるのだと心得て帰ってくださいな」
「(カッコイイ!!)」
「以上!ご清聴ありがとうございました」
「ブラボー!!ブラーボー!!」
「ステキー!」
「そんじゃあまずは…」



13号の話が終わり相澤が切り出したところで不自然に言葉が止まった。目線を動かす彼につられもそちらを見ると少し先にある広場に黒い影が。徐々に大きくなるそれから人らしきものの姿が現れる。がそれを認識したと同時に相澤が声を張り上げた。



「一かたまりになって動くな」
「え?」
「13号!!生徒を守れ」
「何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「動くなあれは 敵だ!!!!」



切島の言うような、用意されたものだったらどんなに良かったことか。



「先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいるはずなのですが…」
「どこだよ…せっかくこんなに大衆引きつれてきたのにさ…」



続々と広場に現れる姿にゴーグルを装着した相澤が先日のはクソ共の仕業だったかと零す。どうやら先のマスコミ騒動は敵により意図して起こされたもので、騒ぎに乗じて情報を取られたらしい。



「平和の象徴…いないなんて…子どもを殺せば来るのかな?」



明確な悪意が、こちらを狙っていた。