04

「始めようか有精卵共!!!戦闘訓練のお時間だ!!!」



コスチュームに着替え終わり全員がそろったところでオールマイトの声が響く。ヒーロー基礎学最初の授業は屋内での対人戦闘訓練。市民の目には屋外での敵退治が見られることが多いが、統計的には屋内の方が凶悪敵出現率が高いのだ。ヒーロー組と敵組にわかれ2対2の屋内戦をするためにくじによってコンビと対戦相手を決められた。訓練の設定は敵が核を保持しておりヒーローはアジトに潜む敵を確保するか核に触れることが勝利条件。敵は制限時間まで核を守るかヒーローの確保というもの。AからJまでのコンビだが、Jのみ3人となるようでが引いたくじはそのJだ。赤髪の男子生徒と黒髪の男子生徒が同じくJのくじを引いていた。2人もちょうどの方を見ておりこちらへ寄って来る。



「よっ!初絡みだよな?切島鋭児郎だ、よろしく!」
「俺、瀬呂範太」
です よろしくね~」
「何かってふわふわしてんなあ」
「それ俺も思ってた」
「しっぽのこと?」
「それもだけど、全体的に!」



コンビが決まったところで続けて最初の対戦相手が引かれまずは敵組が爆豪・飯田のDコンビ、ヒーロー組が緑谷・麗日のAコンビとなった。2つのコンビは準備に、残りはモニターで観察するため移動する。そして訓練が始まった。

「先生止めた方がいいって!爆豪あいつ相当クレイジーだぜ殺しちまうぜ!?」



モニターに映る訓練の様子に尻尾がくるんとの身体に巻きついた。切島がオールマイトに訴えるのや周りがざわつくのも無理がなく、向こうの声は聞こえないがスタートから奇襲をしかけヒーロー組、というより緑谷に迫る爆豪の姿は明らかに授業だから集中している、というだけでは済まない。先ほど放たれた籠手を使った爆破はビルの壁を破壊するほどのもので、緑谷に直撃こそしていなかったが傍から見ていてもかなり危険に感じる。オールマイトに注意を促されもう使いはしないだろうが、近接攻撃に移った彼の苛立ちはモニター越しでもわかるほどだった。の横に立っている轟が口を開く。



「目眩ましを兼ねた爆破で軌道変更、そして即座にもう一回…考えるタイプには見えねえが意外と繊細だな」



その言葉には頷いた。爆豪が相当苛立っているのは間違いないし余裕がないようだが、その動き・判断等は目を見張るものがある。戦闘能力に於いて彼はセンスの塊だ。押され気味だった緑谷がついに動き出し爆豪と互いに向かって飛び出す。そのあまりの様子に再び切島が声を上げオールマイトに止めるよう進言し彼も中止を告げようとしたがその瞬間、緑谷が振り上げた拳は天井に向かって放たれ真上に大きな穴が開いた。その衝撃によって生まれたビルの瓦礫を利用した麗日が飯田の隙をついて核に触れる。ヒーロー側の勝利が告げられた。結果としてヒーロー組が勝利したが負けた爆豪・飯田の方がほぼ無傷で緑谷も麗日も終了時には倒れてしまっている。特に緑谷はボロボロで、オールマイトの指示によりハンソーロボで保健室へと運ばれていった。そしてオールマイトと共に爆豪・飯田・麗日がモニタールームに戻ってきたところで講評の時間。



「まあ、つっても…今戦のベストは飯田少年だけどな!!!」



その言葉に評価された飯田は驚き、蛙吹などは勝った2人ではないのかと尋ねたがオールマイトは「何故だろうなあ~~~~?わかる人!!?」と勢いよく手を挙げる。それに間を置かず八百万が挙手し、4人について丁寧に講評した。それを聞きながらは前で電池が切れたかのように静かに、俯いて立つ爆豪を見やる。勝敗が決した時の爆豪の様子はほとんど怪我などしていないというのにそれでもどこか痛々しく、ひどく脆く感じた。講評が終わり次のコンビの番。場所を移動したのでそれに乗じてはモニター前に集まる皆を他所に1人後ろで立っている爆豪の近くに寄った。気配を察したのかツンツンとしたミルクティー色の髪が小さく揺れ、赤い目がを捉える。



「…何だよ」
「んん、ちょっと熱くなってきたから人少ないところにと思って」



我ながら下手な理由付けだと思ったし、怒られるかと少し身構えたが意に反して彼は黙っていた。伺うように横目で見てみたが爆豪と視線が合うことはなく、特に離れろとも言われなかったのでもそのままモニターへと向き直る。ちょうど2戦目のヒーロー組、轟と腕がたくさんある大柄の男子生徒が動き始めた。建物内を調べているようだがすぐに大柄の生徒が外へ出て待機し、轟があっという間に建物全体を個性の氷で覆う。その冷気が地下にあるモニタールームにまで達した。オールマイトを始め生徒たちもそれぞれ己の肩を抱きガチガチと震えているが寒さに強いには何てことないレベルである。ふと、昨日一緒に帰った蛙吹が寒いのは得意ではないと言っていたのを思い出し探してみると皆と同じように震えていた。その姿を見てはさっと蛙吹のところへ行き己の腕に抱き込んで身体に尻尾を巻きつける。



「梅雨ちゃん大丈夫?ちょっとでもマシになるといいんだけど」
「ケロ…とっても温かいわ、ありがとうちゃん」



こちらを見上げて微笑む蛙吹にもにっこり笑って返した。それを見ていた峰田が「オイラも温めてくれ!!」と駆け寄ろうとしたが周りの男子に捕まりのもとに辿り着けず。無念である。そうこうしている内にヒーロー組が勝利し、氷が今度は轟の熱によって溶かされていき蛙吹ももう大丈夫と言うので身体から離れた。さあ彼らの講評だというところでの腕時計型トランシーバーが鳴る。何だ何だと生徒たちの視線が集まる中、心得ているオールマイトが促すように頷いたので腕を口に寄せボタンを押した。



「はいです」
ちゃん、授業中にすまないね 来てくれるかい?』
「あっはい、すぐに向かいます!」



トランシーバーはリカバリーガールと連絡を取る為のものなので当然だが、彼女の声が聞こえてくる。まさか授業開始その日から呼ばれるとは思っていなかったがおそらく先ほど搬送された緑谷のことだろうとはオールマイトにアイコンタクトを送りながら了承の返事をした。「すみません、抜けます」と頭を下げるにオールマイトは笑って手を振る。あがる疑問の声を背に受けつつ急いでモニタールームを後にした。皆に説明しないとな、と苦笑いを零す。保健室に入るとベッドには緑谷が寝ており、他に生徒の姿はなかったのでやはり彼についてらしい。



「体力を考えると全快とはいかないからね 頼めるかい?」
「もちろんです!」
「できる範囲でいいからね あんたも帰れなくなっちゃうだろ?」
「はい…」



仰向けに眠る緑谷の身体にそっと両手をあて治癒の個性を発動する。なかなかの状態だ。個性把握テストのボール投げのときも彼は爆発的な力を発揮し指を負傷していたが、こんなリスキーな個性をずっと扱ってきたのだろうか。は眉尻を下げた。大きな怪我でもあっという間に治せるくらい強力な治癒の個性だったら、彼のも綺麗に治せるのに。リカバリーガールは相手の治癒力を活性化させ怪我した本人の体力を削るものだがは己の体力を削る。範囲が広いほど、傷が深いほど、治癒に時間がかかるし体力を消耗するのだ。治癒速度と自身の体力は今後の大きな課題だとは改めて実感した。

できる限り緑谷の怪我を治したがやはり完全には無理だった。体力的にはもう少しいけたがもう授業終了の時間となってしまったのでリカバリーガールに戻るように言われは教室へ向かう。もう皆帰ってしまったかと思ったが近づくにつれ教室から声が聞こえてくるのでまだ残っているようだ。扉を開けるとバッと振り向いた一同がの姿を目にすると入り口へ集まってくる。その中にいた蛙吹が「おかえりなさい」と声をかけてきたので「ただいま~」と返した。



「今から皆で反省会しよーって話してたんだ!」
「リカバリーガールに呼び出されたんだろ?」
「何だったんだ?」
「あ、えっと、」



次々とかけられる言葉に戸惑っていると蛙吹に名を呼ばれる。



ちゃん、あなた特別スカウト枠で入学した子なんじゃないかしら」
「そういえば今年は新しい制度が導入されたって聞いたな」
「たしかに!うち21人いるし!」



蛙吹は思ったことを何でも言ってしまうと本人から昨日聞いたが言うだけあって単刀直入に切り出してきた。授業中にリカバリーガールに呼び出されるというのは、まあ普通はないだろうがそれだけで特別スカウト枠に結び付けるとは洞察力が鋭いなと思いつつ他の子たちもだいぶザワザワとしてきたのでは蛙吹の言葉に頷く。



「私、治癒の個性も持ってて」
「治癒!?すげー!!」
「なるほど、それで呼ばれたのか」
「豹の個性だけじゃなかったんだな!」



とりあえずリカバリーガールとのことなど大まかに説明した。「良い個性だな!」と笑っている皆を見ては内心ホッとする。特別スカウト枠というものを周りがどう感じているのか実は不安だったのだ。と、反対の扉から爆豪が出ようとしているのが見えた。の視線に気付いた麗日たちが反省会しようと彼を呼んだが反応することなく黙って出て行ってしまう。余計なお世話だろうなと思うが何となく気になってしまい蛙吹たちに断りをいれて自分の鞄を取り爆豪の後を追った。



「…またお前か」
「お買い物、頼まれてたの思い出したの~」
「、そーかよ」



隣に並んだを横目で確認した爆豪は訓練のときと同じく反発することなく黙って足を進めている。何を話すでもなく歩いていると校舎を出て少しのところで緑谷が爆豪を呼び止めた。2人の様子から自分は聞かない方がいいだろうとは爆豪に「先に行くね、また明日~」と声をかけ足早に門をくぐり抜ける。個性把握テストのときもさっきの授業のときも、彼らの間には何か特別なものがあるんだろうなと空を見上げながら歩いていたに後ろから誰かが近づいてきた。ぱっと振り返るとそこには学校で別れたはずのツンツン頭が。



「あれ、爆豪くん?」
「…歩くの遅ぇ」
「爆豪くんが速いんだ、よ、」
「見んな」
「あっうん」



追いついてきたということは彼はきっと歩くのが速いのだろう。なのにペースを合わせてくれているのかを抜いていくことはなくさっきのように並んで歩いていた。緑谷と何を話したのか、振り向いた際に見えた彼の目元は少し赤くなっていたがそれでも訓練が終わった時感じた脆さなどはもう無い。2人はまた無言になったが辺りを包む空気は穏やかで、の尻尾がゆっくり大きく揺れた。