03

祖父が営む道場はなかなかの規模で、昔から住み込みの門下生やお手伝いさんがいる。中学の頃はそのお手伝いさんがのお弁当を作ってくれていたのだが雄英の食堂はクックヒーロー・ランチラッシュが腕を振る舞っているというのを聞いて食べてみたく、これからは必要なときにお弁当を用意してもらうことになった。朝ご飯時にはお手伝いさんに「わがままを言ってすみません」と頭を下げるが、道場のものたちは祖父ほどではないが皆一様にに甘く心底可愛がっているので快く頷いた。入学初日の様子からして早めに行っても誰かしら来ているだろうと思い、は余裕をもって雄英に向かう。教室に着くと思った通りすでに何人か席についておりのご近所さん、八百万と轟も静かに座っていた。



「おはよう、ももちゃん轟くん!」
「おはようござ、ももちゃんっ?」
「おはよう」
「あれ、名前だめだった?」
「い、いえ!嬉しいですわ!!」



2人に声を掛けながら席に着く。八百万は頬をほんのり桃色に染めの姿を目で追った。横を通り過ぎる立派な尻尾が今日も魅力的だ。八百万はもうの尻尾の虜である。その上今まであまりフランクに接してくる相手がいなかったのでさらっと名前で呼んでくる自身にも胸を高鳴らせていた。八百万からも話を振ったりして2人で話していたがほどなくして授業が始まる。午前は必修科目のようで英語などの普通の授業だった。順調に終わり迎えたお昼ご飯。軽い足取りで教室を出て食堂に向かうとちょうど轟が並んでいたので彼の後ろに並び声をかける。せっかくなので一緒に食べないかと誘うと轟は軽く頷いた。の番になり出来上がったものをお盆ごと受け取って食堂を見渡すと先に行った轟が2人分の席を確保してくれていたようでそこへ向かう。



「席ありがとう! あ、轟くんもおそばだ!」
「おお、もか」
「冷たいの好きなんだ~」
「俺もだ」
「おそろいだねえ~」



轟は向かいに座ったに目をやった。楽しみにしていたランチラッシュの料理を前にかなり上機嫌のようで尻尾がピンっと綺麗に真っ直ぐ立っている。「(こいつ分かりやすいな)」と轟は思った。尻尾がなくとも満面の笑みを見ればその様子は十二分にわかるのだが。2人は両手を合わせいただきますをし黙々とざるそばを平らげ、そのまま一緒に教室へ戻った。

いよいよ午後の授業、皆が待っていたヒーロー基礎学の時間。



「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!!」



HAHAHAHAと笑いながら教室のドアを勢いよく開け入ってきたのはNo.1ヒーロー・オールマイト。その姿に生徒たちは興奮を抑えきれずざわめき、もまた例外ではなく目を輝かせた。もっとも、祖母が校長やリカバリーガールと友人である繋がりで家はオールマイトとも関わりがあり、間近で何度も会っているのだが。やはり雄英で、教師として前に立つ姿は新鮮且つ銀時代のコスチュームでの登場というのもあり興奮するものはする。オールマイトから告げられたヒーロー基礎学最初の内容は戦闘訓練。



「そしてそいつに伴って…こちら!!!入学前に送ってもらった「個性届」と「要望」に沿ってあつらえた…戦闘服!!!」



教室の壁からそれぞれのコスチュームが現れ、「おおお!!!!」と皆のテンションが分かりやすく上がる。着替えたら順次グラウンド・βに集まるようにとオールマイトは教室を出て行った。 ぞろぞろと動き出す周りに、も自分の出席番号がかかれたケースを取り更衣室へ向かう。要望には、個性上寒さに強く暑さに弱いのでノースリーブとショートパンツがいいと書いて送った。あとは耐熱で破れにくい素材、白ベースと。ケースからコスチュームを取り出したの尻尾がダラン、と下がった。ノースリーブ・ショートパンツは要望通りなのだが。とりあえず着替えなければと急いでコスチュームを纏いグラウンドへ出る。すでに来ていた女の子たちの姿をざっと確認し、八百万のコスチュームに目を止めた。ほとんどの子がぴったりしたスーツだしあの胸元が開いているデザインよりは、と自分のをそっと見下ろしていると斜め下の方から声が。



「うひょう!へそ出し&絶対領域!!!」



声の主を探すとブドウのような頭の小さな男の子が鼻息荒く親指を立ててを見ていた。視線を合わせるよう膝に手を置き少しかがむ。



「はじめましてだよね です、よろしくね」
「!!! マシュマロ最高!!!オイラ峰田実ヨロシク!!!」



よくわからないが峰田はマシュマロが好き、との脳に記憶された。ふと彼の向こうに紅白頭を見つけたは目の前の小さな肩にそっと手を乗せ「訓練がんばろうね」と微笑んでその場を離れる。が近づいてくるのに気づいた紅白頭、轟が振り返った。彼女の尻尾が昼の時のようにピンと立っている。「轟くん轟くん!」と早くも見慣れたにこにこ顔で呼ぶので返事をするとぱっと自分のコスチュームを指された。



「コスチューム白!またおそろいだあ!」
「……ああ、」
「おそろいいっぱいだねえ あとコスチュームかっこいい!」



彼女はおそろいというものが好きなのか。昨日の個性把握テストのときも他の尻尾をもつ生徒に声をかけているのを遠目で見ていたが、こうも嬉しそうに話されると何だかくすぐったい。白色がおそろいだと言うのコスチュームをざっと見る。ハイネック・ノースリーブの胸下までのトップスにショートパンツ、肘までのグローブと膝上のロングブーツ。すべてエナメル加工で基本白色だがベルトとグローブ・ブーツの折り返し部分はヒョウ柄だった。全体的に色素の薄い彼女の雰囲気によく合っている。轟は一人小さく頷いた。