VALENTINE'S DAY in 2018

(※本編や原作様の流れ等とは切り離し別個のものとしてお楽しみくださいませ)



年が明け寒い日が続く中、季節など関係なくヒーローになる為切磋琢磨の日々を送る少年少女たち。とはいえやはり一学生、男女が入り混じる生活をしているとイベント事に多少なりとも意識を持っていかれるというもの。とある授業終わりの更衣室にて、性欲の権化峰田を筆頭に1-A男子たちは盛り上がっていた。そう、もうすぐバレンタインがやってくるのだ。お隣のB組もそうだが雄英女子は皆中々のレベルの高さで、恋愛感情云々は別にしてもやはりこういう時に期待してしまうのは男の性だろう。お前貰えそう、お前貰えない、と互いに評価し合っている中、上鳴がそういえばと口を開く。



「俺にチョコあげるか聞いたんだけど」
「お前勇者かよ」
「まあなら聞きやすそうだけどな~」
「とんでもない返事が返ってきた」
「え、何?」



わざわざ間を溜める上鳴に皆の視線が集中し、興味なさげに着替えていた轟もちらりと視線を寄越した。



はいつも貰う側らしい」
「ブッハ!」
「あげたことねぇんだって」
「まじか



その言葉にはさすがにあの爆豪でさえも上鳴を見る。どうやら身内からも小中学校でもバレンタインのチョコは貰う側一択だったようだ。彼女が大のチョコ好きということは1-A全員が知っているし、あの人懐っこさや感情表現が豊かで素直な性格からするとあげたくなるのも分からなくはない。一瞬驚いたものの全員なんか納得、という感じだ。



「ってことはからはもらえねぇのか…」
「じゃあやっぱ俺なんか作るかな」
「…砂藤お前……」
「またポイント稼ぎか…」
「そ、そんなんじゃねえよ!もともとケーキ作る予定だったし!」



そのまま話を続ける上鳴たちの輪に、口数の多くない者たちは最後まで混ざることはなかったがちらほら考え込むようにどこか一点を眺める姿が見られた。

そしてバレンタイン当日。学校全体が浮き立っており昼休みまでに異性から呼び出される生徒も出ていた。1-Aの生徒も何人かすでに呼び出しを受けたり見知らぬ相手からチョコを渡されたりしており、時間が過ぎていくにつれ峰田の表情が言葉にできないものとなっていく。特に轟がもはや憎悪といっていい様な視線を送られていた。轟本人は自分のことより今教室にいないのことが気になってしかたないのだが。もうすぐ昼休みも終わるという頃「ただいま~」といつも通りののんびりした調子でが帰ってきたのだがその両腕いっぱいに乗せられたチョコに全員がギョッと目を見張った。器用に指先で扉を閉める姿はこなれた感がある。



「すげー量だな!?」
「えへへ、いっぱい貰っちゃった」
「クラストップじゃね?コレ」



積まれた箱や袋を落とさないように自分の席まで運ぶと八百万が大きな袋を出してくれた。お礼を言いながら受け取り綺麗に直していく。駄菓子のような小さいものから有名ブランドのロゴが書いてあるものまで幅広い種類を見せるチョコレート。誰からもらったのか尋ねると他の科の子や先輩たちから男女問わず渡されたと嬉しそうに笑った。八百万は袋に入れるのを手伝いつつ一人頷く。恐るべしユキヒョウパワー。午後のヒーロー基礎学では皆気持ちを切り替え訓練に集中したが、授業後は再びふわふわした雰囲気に包まれる。というのも芦戸、葉隠が寮に戻ったら着替えを済ませて1階の共同スペースに集合するようにと皆に声をかけたからだ。普段なら我関せずと自分の部屋に籠るだろう爆豪もに誘われ(芦戸葉隠の策)渋々従い、見事に全員が集まった。



「喜べ男子ー!」
「私たちからのバレンタインだよー!」
「待ってましたアアアア!」
「信じてた!!!ありがとうございます!!!」



女子7人が台所から2種類のケーキを持ってきてテーブルに置く。「ハッピーバレンタイン!」と笑う7人に峰田・上鳴が雄叫びをあげ、瀬呂や切島、他の男子陣も素直に喜んだ。



「女子全員で作ったから!」
「ケロ、砂藤ちゃんには及ばないだろうけど…」
「味見はしたので大丈夫だと思いますわ」
「いや、こういうのは気持ちだ!まじでありがとうな!」
「甘いの苦手なやつはシフォンケーキのほうね」



用意されたケーキはザッハトルテと甘さ控えめのシフォンケーキだった。耳郎が切り分けている間に時計を確認した砂藤が一度台所に消え、トレイと共に戻ってくる。



「実は俺からもあってな」
「砂藤!!私らも信じてた!!!!」
「フォンダンショコラじゃん!サイコー!!!」
「砂藤貴様…マジでやりやがったな…」
「いいだろ別に!訓練がてらだよ!!」



7個のフォンダンショコラが小皿に乗せられており女子一同目を輝かせた。やはりというか、特にがキラッキラの眼差しで「フォンダンショコラ大好きなの!」とお礼を言うのでこれには砂藤も頬を染め頭を掻く。峰田がポカポカと手で攻撃してくるが今なら怒りも湧いてこない。そして分けられたケーキをそれぞれ取りみんな揃って食べ始めた。蛙吹などが謙遜の言葉を零していたがこれはなかなか、と男子たちの手が進む。心配せずとも十分美味しい。



「全員ってことはも作ったんだよな?」
「うん!バレンタインあげるの初めてだあ」
「ハジメテ……」
「私らが誘ったんだから!感謝してよー!」
「芦戸様葉隠様ありがとう…生きてて良かった…」
「峰田上鳴きもい」
「でもちゃん手際良かったやんね?」
「家でよく作ってたんだ~お菓子作りは好き!」
「あ、なるほど」



好きなものを聞かれるとカキ氷とチョコが真っ先に浮かぶだが、チョコだけでなく甘いものは大概好きなので休日によくお菓子作りをしていた。バレンタインに人に渡すことはなかったが普段祖父たちにお菓子を振る舞っていた為慣れてはいるのだ。バレンタインというのを抜きにしても身内以外に作ったこと自体が今回初めてだったのでこういうのも悪くないなと微笑む。食べながらも騒ぐ活発組のそばから離れ少し静かなほうへ移動すると口田と目が合った。「美味しいですか?」と聞くといつものように少し慌ててコクコクと首を動かす。近くに座っていた尾白、常闇、障子も続けて頷いた。



「本当に美味しいよこれ、ありがとうさん」
「ああ、美味いな 優しい味だ」
「シフォンケーキの甘さがちょうどいい」
「こちらこそありがとうだよ~ 皆にも後で伝えてあげて!」



そのまま取り留めのない話をしていると緑谷と飯田が寄ってくる。女子一人一人にお礼を言ってまわっているらしい。



くんもありがとう!とても美味しかったぞ!」
「ウン、本当に…!ありがとうさん!」
「えへへ、こちらこそありがとう~」
「ハハ、今向こうで余ってる分の争奪戦してるよ…」
「そっか、2つ残ってるんだね」



「元気だなあ」と緑谷、飯田とそろってじゃんけん大会をしている上鳴たちを眺める。何度か勝負を重ね切島と芦戸がガッツポーズをした。この2人が手に入れたようだが芦戸に関しては「ってかお前女子じゃん!!!」と上鳴たちに指をさされている。しかしそれに屈する性格ではないので勝ったもん勝ちとケーキを攫っていった。美味しそうに頬張る彼女に負けた者たちの口から恨めしそうな声が漏れる。ワイワイと何だかんだ楽し気な様子にの尻尾がご機嫌に大きく揺れた。

軽いパーティー後のようだったテーブルなどの片付けを済ませ、いつも通り各々が自分の時間を過ごしている夜。は風呂上がりの日課である紅茶を飲もうとカップ片手に談話スペースに行く。ソファには緑谷が一人で座っており、テレビを見ているようだった。



「動物の番組?」
「わっ!!!あ、さんっ」
「わあごめん、驚かしちゃった」
「イヤッ僕こそごめん!ぼーっとしてて…!」
「これおもしろ映像のやつ!私も見よ~」



緑谷がいるソファとは別の方に腰を下ろしテレビに目をやる。そわそわと落ち着かない様子の緑谷だったが去ることはなく、ちょっとずつ慣れてきているらしい。始めの頃は女の子に免疫がなかったのか必要な事を話すとき以外はぴゃっと逃げる小動物を思わせる行動をしていたのだ。しばらく2人でテレビを見ながらたまに話し、緑谷の緊張が完全に解けた頃。彼の視界の端、の背後に人影が見えそちらに目をやると険しい顔で己を睨んでいる爆豪の姿が。内心ヒエッと驚いた緑谷がギリギリ声は抑えることができた。不自然に言葉を止めた彼には首を傾げ、目線を追うように後ろを振り返る。爆豪はスン、と無表情になった。そして無言での隣に座る。



「爆豪くんもテレビ見に来たの?」
「違ぇ …ん」
「ん?これ何?」
「黙って受け取れや」
「(エッか、かっちゃんまじか…!)」



横から差し出された箱を言われた通りに受け取ると爆豪はフンと鼻を鳴らし自身の膝に肘をつき手のひらに顎を乗せた。箱と爆豪を見比べ、開けてもいいか尋ねると短く肯定の返事が返ってくる。太腿の上にそっと箱を置き、リボンを解いて被せてあるフタを持ち上げると中には正方形のチョコレートケーキが一つ。



「わあ!オペラだ!おいしそう!」
「ったりめェだろ」
「んっ?もしかしてこれ爆豪くんが作ったの?」
「おー」
「すごい!!!」
「ヨユーだわそんなん」
「さ、さすがかっちゃん…」



売り物のような出来栄えに緑谷は「才能マン…」と呟いた。まず何より爆豪が、バレンタインに、手作りのチョコを、女の子に、プレゼント。驚き要素が多すぎてもう突っ込むことすらできない。常々感じていたことだがやはり"そう"なのかと緑谷は顔を引き攣らせた。信じられないという視線を受けている爆豪はそんなもの知るかと目もくれず、喜んでいるにだけ集中している。



「きれい、かわいい…大事に食べる!!」
「おー」
「はあ~…爆豪くん本当にありがとう~!!」



感嘆の声を漏らし、上気した頬で今日一番の笑顔を自分に向ける。それにニヤ、と口角をあげ彼女の頭をわしゃっと撫でる。ご満悦の爆豪は「早よ寝ろ」と一言残してエレベーターのほうへと消えて行った。優しすぎて逆に怖い。緑谷はぶるっと身体を震わせ、この夜悪夢を見ると確信した。テレビを消して緑谷には先に部屋に戻ってもらいは台所に寄る。箱に名前を書いて冷蔵庫に直し、自分もそろそろ寝ようとエレベーターに向かった。すると男子棟の方のエレベーターがちょうど1階に下りてきて中から轟が出てくる。



「轟くんだ~」
、ちょうどよかった」
「私に用事?」



の言葉に小さく頷いた。目の前まで寄ってきて片手を取り、手のひらサイズの箱を乗せる。



「えっ貰っていいの?」
「おお…わりィ、チョコじゃねえけど」
「そんな!すごく嬉しい!開けてもいい?」



またも小さく頷く轟。丁寧にラッピングを解いて箱を開けると、ガラスのミニドームが入っていた。ピンクと白の薔薇が1つずつ寄り添うように並んでおりその周りはラグラスやフェイクパールで綺麗にアレンジされている。



「かっ、かわいい~……!!!」
「お前チョコはいっぱい貰うって聞いたから他のが良いと思って」
「これプリザーブドフラワーだよね…!?」
「ああ、そんな名前だったな」
「結構するんじゃ…!!」
「そうでもねぇよ 受け取ってくれると助かる」
「い、いただきます!すごく素敵!もうっ…かわいい!!」



感動しひたすら箱の中を見つめるに轟も僅かに頬を緩ませた。興奮のあまりもう「かわいい!ステキ!」しか言っていないがそれほどまでに喜んでもらえたならプレゼントした甲斐があるというものだ。姉に相談してみてよかった。ありがとう姉さん。心の中で感謝する轟だった。



「お部屋に飾るよ!大事にする~!」
「気に入ったみてえで良かった」
「そりゃあもう…!本当にありがとう~…!!」
「おお こんな時間にすまねぇ」
「ううん全然!ゆっくり休んでね~」
も じゃあまた明日」
「おやすみなさい~」
「おやすみ」



部屋に戻ってローテーブルの真ん中に貰ったばかりのミニドームを飾る。やっぱり可愛い。彼のセンスの良さに脱帽した。たくさんの人からチョコをもらいクラス皆でケーキを食べ、爆豪からは手作りチョコケーキ、轟からはこのプリザーブドフラワーをもらい。今日は本当に嬉しい一日だとの胸はいっぱいになった。