幼女再び

建設重機のようなヘルメットタイプのマスクで顔を覆っている見慣れた同僚の足に引っ付いているこれまた見慣れた耳と尻尾を持つ、しかし記憶より随分と小さい少女を前にして相澤は頭に痛みを覚えた。



「すまんイレイザー」



ほとんど隠れているせいで表情はわからないが謝罪を告げたその声色から申し訳なさと疲れが伺える。同僚パワーローダー曰くサポート科のとある生徒が知らぬうちに開発していた"相手を幼児化させる薬"の出来を試そうとたまたま見つけた女子生徒にスタミナドリンクと称して飲ませた結果、予想通り子供になったものの一向に戻らずそもそも効果がいつまで続くのかを考慮し忘れたのだとか。その女子生徒が相澤の教え子、であったのだ。原因である薬の開発者には早急に解毒剤(当人は毒ではないと口を尖らせていた)を作るよう指示しすでに罰則も与えられているらしい。話を聞きつつ恐る恐るこちらを見上げているアイスブルーを見つめ返す。再び幼い姿の彼女と相見えることになるとは。



「戻るまで実践は難しいな…、座学は受けられるか」
「…おにいさんだあれ?わたしのことしってるの?」
「記憶も当時のものに戻ってるらしい」
「それを先に言ってください」



痛みが増し相澤は頭を抑えた。



「というわけではしばらくこの状態だ」



あれ?前にもあったなこんなやつ?相澤の腕に抱えられているクラスメイトの姿を見て全員の心が一致した。事の詳細を聞いたわけだが。先生の目を盗みそんな薬を開発し、しかも効果の持続について考えるのを忘れた上そこらの生徒に説明なしに試すような真似をするとは。クレイジーかと呟く誰かの声に皆頷いた。



「保護者に連絡はしたが、とりあえず寮で過ごさせることにしたから」
「まじっすか」
「対子供へのコミュニケーション力を鍛えるいいチャンスだろ」
「先生ちょっと投げやりになってね?」
「記憶も戻ってるようだが幸いなことに話は通じる方だ」



自分が何故ここにいて、両親はいないのか、最初は不安がっていたが「仕事でしばらく遠くに行くから預けられた」という設定で伝えると素直に受け入れたので教師陣はほっとしたのだった。微妙に人見知りをする様子があったが慣れるのにそう時間はかからないようですでに相澤にはぴったりくっついている。



「記憶もないのか~」
「女子、特に八百万には何かと世話をかけると思うがよろしく」
「はい!!お任せください!!」



こうして、幼いの数日に及ぶ雄英生活の幕が上がった。