とある朝、雄英の制服を身に纏い愛用のリュックを背負っていつもの通学に使う道を歩いていた
は途中の信号で青に変わるのを待っている時、横にいた子供から熱い視線を感じ視線を下ろした。「かわいいしっぽだね!」とキラキラした眼で声をかけてくる少年に思わず破顔しお礼を言う。少年と手を繋いでいた母親と思われる女性もにこにこと2人を見守っていたのだが、自身と繋いでいない方の子供の手がバッと動くのを目にし「あっ」と反射的に声を漏らした。
「だめ!」
「えっ?」
「ああっ!!」
顔を青くして謝罪の言葉を叫ぶように言う女性に首を傾げる
は、自分の身体に違和感を感じた。何事かと考える間もなく気付けば目の前には少年の顔があり、その手には自分の尻尾が握られている。背負っていたはずのリュックが肩から落ち地面にドサッと音を立てるのを聞いてやっと状況を理解した。
「たいへん!本当にごめんなさい!!」
「おねーちゃんぼくといっしょになった~!」
「なんと…」
リュックだけでなくスカートまでも落ちてしまったのを女性が目にも止まらぬ速さで上げ、
に只管謝る。
はおそらく幼稚園児である少年と変わらぬ背丈になっていた。
「というわけで
は今日一日この状態だ」
いやどういうわけ!?1-A全員の心が一つになった瞬間だった。相澤の腕に抱えられている幼女に大半が目を剥く。あの後
は女性、少年の母親に連れられ雄英までたどり着いた。母親曰く最近息子に個性が発現したのだが触れたものを若返らせるというもので、本人がそう望んで触ると力が発動するとのこと。少年はいたく
を気に入ったようで、自分と同じにしたいと思ったのではないかと。少年の体調などにもよるが一日は持たないのでどんなに遅くとも明日には戻っていると思うが解除はできないらしい。細かい仕組みが分からず、相澤の個性でも戻らなかった。
「記憶はそのままらしいから授業は受けさせることになった」
「めいわくかけるとおもうけど、おねがいしまし、ぅ」
「(噛んだ!)」
「(涙目!ウルトラカワイイ!!)」
少年と同じであれば4歳ごろであるという
は当然机や椅子のサイズが合わず、八百万が作った子供サイズの物で授業を受けることになった。余談だが制服もミニサイズで作ってもらい「ももちゃんありがと~!」と満面の笑みで両手をあげて喜ぶ
に八百万は崩れ落ちたのだった。真ん中では教卓が邪魔で見えないだろうということで葉隠・障子の間に席を置いたのだが、いざ授業が始まってみると結局目の前あたりの黒板しか見えず、遠いほうは教卓が被ってしまっており、しょぼんと尻尾を下げる。切なげな表情で見つめられたプレゼント・マイクは思わずチョークを折った。
「どーするよ?いっそ教卓に座るか?」
「それじゃあみんなのじゃまになっちゃいます…」
「私が高めのものに作りかえ「ハイ!膝に乗せればいいと思います!」
八百万は高めの物を作り直し座るのだけ手伝えばいいと提案しようとしたのだがそれを上鳴が遮る。上鳴の言葉に教室中がざわっとなった。どう考えても八百万の案が一番なのだが、あえて皆そこには触れず"膝に乗せる"というフレーズに胸を踊らせる。誰が
と一緒にお勉強するのか、緊張に包まれる教室。ちなみに誰よりも興奮している峰田は心身ともにアウトなので論外である。
はそれも邪魔になるからと八百万に新しいものを作ってもらいたかったのだが、授業を早く再開させるためにマイクが独断で耳郎を指名した。
「ごめんね、きょーかちゃん」
「イヤ、大丈夫」
「しっぽじゃまじゃない?」
「ウン、大丈夫」
膝に乗って顔だけ振り向かせて見上げる
。ただでさえ普段からふわふわしていて同じ女から見ても可愛いと思っているのにこんなことがあっていいのだろうか、いや、いい。耳郎は内心大はしゃぎだった。そのまま午前の授業は耳郎と共に終え、昼休憩に。今日はパンの気分だったので予め買ってきていた。なので同じく持参組の蛙吹、耳郎と教室で昼食を取る。
「パンなら机のサイズが合わなくても問題ないから大丈夫ね」
「うん!きょーかちゃん、おせわになりました!」
「全然、軽かったし」
もぐもぐとパンを詰め込んでいく姿は不思議といつもより必死そうに見え、蛙吹と耳郎は最後まで見守っていた。とはいえ見た目は子供だが中身は変わらないのでハプニングもなく食べ終わり、
は満足気に息を吐く。パンの袋などを捨てようと椅子から飛び降り、ゴミ箱へ向かうとちょうど峰田たちが食堂から帰ってきた。いつもは身長差から見下ろす形になっていた峰田が今は同じ近い目線にいることに
は頬を緩める。
「みねたくんとこうしてはなせるなら、わるくないかも~!」
「(
天使降臨)」
「(眩しいッ)」
「…オイラ胸のない奴は女と認めないけどこれはこれで…」
「峰田から離れな
!!」
「
ちゃんこっちに戻ってきてちょうだい」
「何だよ女子ィ!独占してんなよォ!!」
「どけクソ」
「ぴぎゃっ」
耳郎たちに冷たい目で見られながらも目の前で微笑む
に飛びかかろうとした峰田は寸のところで現れた爆豪に踏みつぶされた。そして突然のことにウワッと後退りする
に「はよ耳女のとこ行け」と肩を掴んで方向転換させる。
「でもみねたくんが」
「ほっとけ」
「大丈夫だから
気にすんなー!」
その後、午後からのヒーロー基礎学は見学させてもらい帰る準備をしていると相澤が声をかけてきた。帰る途中に個性が解けてしまうといけないので迎えを呼ぶかとのことだったが、八百万がシュバッと勢いよく手をあげる。
「私が
さんをお送り致しますわ!!」
「えっわるいよ!ちかいからだいじょーぶです!」
「途中で解けたら大変なことになるぞ」
はきりりとした顔でダッシュで帰りますと主張したが結局、八百万と一緒ならすぐに身を隠せる物を作れるだろうと相澤の指示で送ってもらうことになった。先に大きめのタオルだけ出しておき万全の態勢で構えていたが無事に家まで個性が解けることなく辿り着く。わざわざついて来てくれた八百万に頭を下げた
は彼女を見送り家に入った。靴を脱いでいるとドンッという鈍い音がしそちらに目をやると、床に膝をついた祖父が震えている。そら驚くわなと思いつつサラっと今日のことを報告すると「な、なるほど…」と動揺したまま手招きするので、首を傾げながらも素直にそばに寄った。
「おじーちゃん?」
「ハアアアかわいいな!?!?」
「んぐえっ」
「もう一度幼い
が見れるとは!!!!」
「くるしい…」
祖父はご乱心である。この後戻るまでめちゃくちゃ写真撮られるわ世話を焼かれるわでいつもより疲れる
だった。