04

慌ただしくも何とか無事にローグタウンを出港した麦わらの一味。嵐のおかげで船がひっくり返されそうになるほどの波を進んでいく。



「っていうか一人増えてるじゃない!!」
「っていうかその顔ォ…!!」
だ!!」
「「知ってる~~~手配書で見たことある~~~」」



何故か涙を流しながらこちらを指さすオレンジ髪の女と長い鼻が特徴の男に首を傾げた。



「あか、赤獅子のじゃないのよ!!」
「何だよ前に言っただろ」
って仲間がいるってね!!名前が同じなだけでまさか赤獅子の本人だとは思ってなかったわよ!!」
だ」



そういうことじゃないと思い切り叩かれるルフィ。



「ルルルルフィおまえわかってんのかァ!?」
「なにが?」
「赤獅子っていや、ごっ5000万ベリーの賞金首だぞ!!」
「なにィ!?おまえ5000万ベリーなのか!?」
「…うん」
「赤い髪を靡かせその身一つで駆ける姿はまさに"獅子"…!!」
はいいヤツだ! な!」



にかっと笑いかけてくるルフィに無言を返す。ゾロ、サンジは大した反応を見せていない、というかサンジに関してはレディ大歓迎とかなりウェルカムな態勢でいてくれているのだが。まさかこんなに怯えられるとは思っていなかった。長鼻の男は可哀想なくらい震えている。懸賞金5000万ベリーと言っても、その意味の大半は鷹の目と共にいたからだろう。初頭で3000万、これからさらに上がっていくであろうルフィや他の者とは違い、己にこれ以上はないとは思っているのだがそんなことを話したところで何も変わらないか。船に乗るのは彼らの心の準備ができるまでもう少し待った方がいいかもしれないと考えたのをルフィが察したのか。ぎゅっと眉を寄せる。



を泣かせる奴は許さねェ!!」
「はァ!?」
「みろ!悲しそうにしてるだろ!」
「どこが!?」
「おれには分かる!」



ルフィの言葉に全員がの顔を見つめるもその表情に動きはなさそうで。いやわからんと思った。わからんが、一気に視線を受けて居心地悪そうに少し背を丸め髪と同じ赤い目を伏せる姿を見ると何だか悪いことをしている気分になる。赤獅子の名に慄いていた二人は顔を見合わせ、ふっと息を吐いた。



「あー…でいいか?悪かったよ、びっくりしちまって」
「あんた強いんでしょ?なら大歓迎」



「私のこと護ってよね」とウインクされ、は少し目を見開く。



「…いいの?」
「いいも何も、船長が最初から仲間だっつってんだからよ」
「そーだぞ!!は昔からおれの仲間だ!!」



黙って見ていたゾロが呆れたように言い、それに続いてルフィも満面の笑みを見せた。そこから伝染するように二人も笑顔を浮かべ、手を差し出す。オレンジ髪の女の子はナミ、長鼻の男はウソップと名乗り「よろしく!」との手を握った。荒波に行く少し先に明かりが見える。"導きの灯"と呼ばれる灯台であの光の先に"偉大なる航路"の入口があるのだ。どうすると尋ねるナミに、サンジが偉大なる海に船を浮かべる進水式でもやろうと樽を一つ出してきた。順番に自身の夢をかかげ片足を乗せていく。



「おれはオールブルーを見つけるために」
「おれは海賊王!!!」
「おれァ大剣豪に」
「私は世界地図を描くため!!」
「お…お…おれは勇敢なる海の戦士なるためだ!!!」
「…海賊王の誕生をこの目で見るため」



「いくぞ!!!"偉大なる航路"!!!!」


進水式を終えた達は一先ずラウンジに入った。ナミ、ルフィはまだ甲板に出たままだが、ナミは航海士だというので進路を確認しているのだろう。ウソップの横に座って水を飲んでいると斜め前にいるゾロから視線を感じた。



「?」
「お前、"鷹の目"といたんだろ」
「うん」
「剣は教わったのか」
「色々教えてもらったけど、剣士としてじゃない」
「へェ…」



ミホークから教わった戦い方というのは対能力者への立ち回りがメインで、常に素手というわけにはいかないだろうと護身程度に剣術を見てもらっただけだ。にやり、と口元を歪ませるゾロに大したことはできないと首を振る。



「鍛錬に付き合えよ」
「…重みのない剣でよければ」
「ウチは他に剣士がいねェんだ こいつらよりマシだろ」
「黙って聞いてりゃてめェ!レディに何頼んでやがる!!」
「本人が良いっつってんだからいーだろ」
「あァン!?」



この短い時間でもよく分かるが、サンジはずいぶんとフェミニストらしい。鍛錬くらい構わないのにと思っているとナミ、ルフィがラウンジに入ってきた。ルフィはゾロの隣に座り、ナミはテーブルに海図を広げる。"偉大なる航路"へ入るには山を越えなければいけないということにウソップ達は驚きの声を上げた。先ほど見た灯台の光が差しているのは"赤い土の大陸"にあるリヴァース・マウンテン。その山を登っていくのだ。ゾロはわざわざ入口から行かなくとも南へ下ればどこからでも入れるのではないかと言う。



「それは違うぞお前っ!!」
「そう ちゃんとわけがあんのよ」
「入口から入った方が気持ちいいだろうが!!!」
「違うっ!!」



的外れなルフィにナミが突っ込む後ろで、外を見たウソップが嵐が止んだと呼びかけた。それを聞いてはあ、と小さく声を漏らしたが誰の耳にも届いておらずナミ達は様子を見に出る。ゾロと共に後からついて行くと、ナミが"凪の帯"について説明していた。"偉大なる航路"を挟むようにして存在する無風の海域だ。そしてその海域は。



「うわっ何だ何だ、地震か!?」
「バカここは海だぞ」
「!!!?」



突如船が揺れたと思ったら海の中から巨大な海洋生物達が現れる。一味の船、ゴーイングメリー号はとある海王類の頭に乗り上げていた。



「海王類の……………巣なの……」



柱に掴まり泣きながら言うナミに、男達は大口を開けている。そう、ここは大型の海王類の巣なのだ。顔を出したいくつかの海王類はすぐにまた潜って行ったし、大きいが故こちらには気付いていないだろうから全てが潜れば漕いで戻れると思っていた矢先、メリー号を乗せた海王類がくしゃみをしたせいで船が飛んだ。さらにそのおかげで巨大なカエルに認識され弾みで落ちかけるウソップ目掛けて跳んでくる。ルフィが腕を伸ばしウソップを掴んで、そのまま船は運良く元の嵐の中へと戻った。揃って倒れ込む中、ナミがわかったと呟く。



「やっぱり山を登るんだわ」
「まだ言ってんのかお前 そんなこと」
「海流よ」



西、東、北、南の四つの海の大きな海流がすべてリヴァース・マウンテンに向かってるとしたら、それらは運河をかけ登って頂上でぶつかり"偉大なる航路"へ流れ出るというナミにが頷いた。



「……あんた知ってたの?」
「前に聞いた」
「!!!そういうことは!!早く言いなさいよ!!!」



目を三角にして迫られ咄嗟に謝る。聞いたというか本当は体験したらしいのだが。ミホークと"偉大なる航路"入りしたときは寝ている間に事が終わっていて自覚がないのだ。ナミに怒られていると前方にルフィが山を発見した。そして名の通り大きな"赤い土の大陸"も見えてくる。見えたと思えばそこからは早かった。吸い込まれるように勢いよく波が船を押していき、運河の入口を少しずれていくのに必死で舵を取る。しかし海の力の方が強く舵は折れてしまい、大陸の壁にぶつかるというところでルフィのゴムゴムの風船という技で向きを直した。身体の中に空気を取り込み風船のように膨れた彼は壁と船の間に挟まって動かし、そのまま落ちそうになるのをゾロが捕まれと手を伸ばす。無事ルフィも船に戻り、どんどん運河を登っていくメリー号は勢いよく頂点に出る。



「あとは下るだけ!!!」
「……!!おお…」



ナミの声に皆揃って前を見ると、その先には。



「おお見えたぞ"偉大なる航路"!!!!」

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