03

時は流れ、10年の月日が経った。は6年前、17歳のときにフーシャ村を一足先に出て海を渡り今ではその首に懸賞金が掛けられている。にとってこの6年間は長いようで短い、これといった目的はないが有意義な時間であった。ルフィと共に冒険をする前にこの世界、この海のことを少しでも学んでおきたかったというところか。悪魔の実のことやこの世界の大まかな位置関係、世に名を馳せる海賊達、戦い方などを知った。一人では大して遠くにも行けず、適当な島で身体を鍛えるくらいしかできなかっただろうが運は彼女に味方していたらしい。女の一人旅だと良からぬ者が絡んでくることも少なくはなかったのでそれらを蹴散らしながら自然に任せ辿り着いた島々への上陸を繰り返している途中、とある海賊に声をかけられた。その男は暇つぶしにとを連れて、気まぐれに物を教えてくれたり戦い方を見てくれる、云わば師のような存在となってくれたのだ。先に"偉大なる航路"へ入ったことはルフィに申し訳ないと思ったが、半ば強制というか。気づいたら入っていたのでどうしようもなかった。



「行くのか」
「はい、お世話になりました」



あれから10年。つまりルフィは17歳になるはずだ。自分と同じように村を出ただろう。ならば約束を果たすため、自身に立てた誓いを果たすため彼のもとへ行かなければ。数年間共に過ごし色んなことを教えてくれた彼に深々と頭を下げる。どこへ行くのかと尋ねられ、は少し考えた。フーシャ村へ戻ってもルフィはとっくに海へ出てしまっているだろうからすれ違ってしまう。"東の海"から"偉大なる航路"へ入るならおそらく。



「ローグタウン」



始まりと終わりの町と呼ばれるローグタウン。自力で行くからと言ったのだが相手も譲らないもので、結局送ってもらったは最後まで彼には頭が上がらなかった。自分もだが当然彼も賞金首でこれまた結構に目立つ男なので極力注目を集めたくないは有難くも少し複雑である。そもそもに懸賞金が掛けられる原因となったのがこの男、世間では鷹の目と恐れられるジュラキュール・ミホークなのだ。王下七武海の一人で世界の大剣豪。目を引く要素が多すぎる。正式に海賊として生きるまで大人しくしておこうと思っていたのに、彼と行動を共にしていれば自然と海賊の仲間入りしており、気付けば賞金首になっていた。は七武海でも何でもないので賞金稼ぎや海軍に追われるし、仕舞いには異名までつく始末。もう一度言うが有難くも複雑である。



「ありがとうございました」



改めて頭を下げるにミホークは静かに頷いて、その頭にポンと手を乗せた。この大きな手に撫でられるのもこれで最後かと思うとやはりさみしくなる。冒険に出れば赤髪海賊団もそうだが、いずれまた会えるのだろうけど。絶対ではないしいつになるかも分からない。互いに表情に出にくいタイプだが、長く過ごすと見れば大体読み取れるようになった。ミホークも多少はさみしく思ってくれているだろうか。さみしいと言うよりは物足りない、退屈になるという感じの方が彼らしい。撫でるのも程ほどに、黒いマントを翻し船に飛び乗る。これからミホークはきっと、ここまでくる途中に出会った海賊のうち逃げてしまった船を追うのだろう。50隻近くの大艦隊だったが彼の手にかかれば次々と沈められていくだけだったその海賊は嵐のおかげでいくつか逃れたのだ。小さなその船が進みだすのと同時にも海に背を向ける。



「ルフィが来るまで、どこかでやり過ごそう」



ミホークのことを目立つと言ったが自身、この赤い長髪が人の目を引くことを自覚していた。フード付きのローブを纏って町へ入る。この日はパンと果物を買い、適当な宿を見つけて部屋にこもった。その短時間でも海軍を見かけたし、ここには大佐・白猟のスモーカーもいるらしい。対峙したことはないが向こうはこちらの顔を知っているはずだし能力者だ。出会わずして済ませたい。それから数日間、食材を買うとき以外は外出しないようにし、買い物の際にできるだけ毎回場所を変えてルフィが来ていないか探った。それでもどうやら海軍には自分が上陸しているという情報が入っているようだ。人の噂とは恐ろしいな、と思いながら今日の新聞を購入すると新しい手配書の中に待ちに待った顔が見える。



「ルフィ…」



ついに彼も賞金首か、との頬が緩んだ。それも初頭手配で3000万ベリー。さすが海賊王になる男だ。にとってルフィが海賊王になるというのは一つの真実だった。


宿に戻るのも忘れてその手配書をじっと眺める。自然にゆるゆると口元が動くのを自身で感じていた。とてもいい笑顔で写っているルフィに、早く会いたいという気持ちが湧き上がる。そんなことを考えていたからだろうか、ふとルフィのにおいがした気がした。の民族は鼻が利くのだが、まさかと手配書から顔を上げ辺りを見回す。色んなにおいが混ざっているがルフィのものはないようなあるような。そもそも6年も経っていればにおいが変わっているかもしれない。気持ちが先走ってしまっただけだろうか。しかし何だか海軍が騒がしい。とりあえず少し町を見回ってみようと手配書を懐に直し歩き出した。



「おい海賊が死刑台の広場で騒いでるってよ」
「死刑台の~?」
「公開処刑とかなんとか」
「何だそりゃ…行ってみるか!」



海賊が死刑台の広場で公開処刑とは、不穏な響きだ。町民の話を聞いたはそちらに向かって走り出す。近づくにつれ懐かしいにおいが強くなっていくのを感じ、そこにいるのだと確信した。集まる民間人が揃って上を見ているのでその視線を追ってみると死刑台に、首を抑えられている者とその首に刃を振り下ろす男の姿が。思わず足を止める。何故死刑台に、見慣れた麦わら帽子が、麦わら帽子の良く似合う男が。



「ゾロ!!サンジ!!ウソップ!!ナミ!!…!!



わりい おれ死んだ」



ルフィ!!声に出したのか自身でも分からないまま、フードが脱げるのも構わずは駆け出した。群衆が邪魔だ、ルフィ、間に合わない、死ぬなんてありえない、飛ぼうか。一瞬で色んな事を考えているというのに、今首を落とされそうになっている彼は笑っている。今度こそその名を叫ぼうとしたその時。大きな雷鳴が響き渡り振り下ろされた刃目掛けてなのか、落ちた雷に死刑台が燃え崩れていった。そして待っていたかのように降り出した雨。ヒラヒラと地面に落ちた麦わら帽子を男が拾い頭に乗せる。



「なはははやっぱ生きてた もうけっ」



「あーよかった」とやはり笑う彼にが飛びついた。



「!? 誰だ!?」
「んなァ!!クソゴムてめっ羨ましい…!!」
「あー!!この髪!!お前だろ!?」
「ルフィ…よかった…よかった」



ぎゅうと抱きつく女の赤い髪を見てルフィはすぐにだと気付く。ルフィの仲間となったゾロ、サンジは一瞬警戒したが""という名前を聞いて力を抜いた。ここに来るまでの間に船長の口からその存在について語られていたのだ。感動の再会を邪魔したいわけではないが、一先ずこの場を去らないともう一騒動ありそうだとゾロが促す。それにもルフィから離れ、一緒に船を泊めてあるという場所へ向かって走った。



ちゅわん♡君に会えるの楽しみにしてたんだよお♡」
「…」
「おれはサンジ よろしく~♡」



走りながら器用にも目をハートにして言うサンジを一瞥しコクと頷く。前に向き直ると少し先に一人の女性が立っていた。



「ロロノア・ゾロ!!!」



あなたがロロノアで、海賊だったとはと叫ぶ彼女はゾロと顔見知りらしい。ゾロも相手が海兵だったとは思っていなかったようで彼女の刃を受け止め「先行ってろ」とルフィ達に言う。まさか仲間に"海賊狩り"と呼ばれたロロノア・ゾロがいるとは、しかしルフィが一言返してそのまま進むと言うことは大丈夫ということなのだろう。とはいえ海兵は彼女だけではない。まだ追いかけくる奴らを船のそばまで寄せるのも良くはないかと判断したは自身も立ち止まる。



!?」
「…後でゾロと戻る」
「…わかった!」



急に走るのを止め振り返ったに海兵達も急ブレーキをかけ武器を構えた。彼らは海賊狩りに続いてこの赤い髪の女まで麦わらの一味だというのかと戸惑いを隠せない。相手の動きが止まっているうちにと数人蹴り飛ばしていく。やけに雨脚が激しくなってきたなと思っているとゾロが「急げ!!」と向かってくる。横を通り過ぎる彼に続いて先へ行くとルフィ達が見えてきたが合流する直前に大人でも耐え切れぬような突風が吹いた。ゾロ、は踏ん張ったが周りに残っていた海兵はほとんど風に足を取られている。



「ルフィ走れ!!島に閉じ込められるぞ!!バカでけェ嵐だ!!!」



グズグズするなとルフィを掴んで行くゾロの後ろにサンジと並んで駆けた。港へ出る途中、スモーカーと思わしき男と全身黒いローブに包まれている男と目が合う。



「てめェ、"赤獅子"!!てめェも麦わらに手を貸すのか!!」
「"手を貸す"んじゃない 仲間」
「!!」
「…フッ」



嵐の中颯爽と駆け抜けていく赤い髪を、唖然とするスモーカーと口角を上げたローブの男が見送った。

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