前世?に過ごしていたような、馴染み深い町並みをぶらぶらと彷徨く。こういう所は高確率で平和な世界なのだ。たまに、命の危機に直面する場合もあるけど。というかここは一体どこの世界なの?本当に元居た世界と変わらない雰囲気で還ってきたんじゃ、と思ってしまうくらいなんだけども。実際のところどうなん?還れたとして私、事故ったはずなんだけど、しかも今猫人間なんだけど、どうなるの?水をかぶると猫になっちゃうの~ってらんまごっこすればいいの?いやしねーわ。そのときはぜひ悪魔の実食べたのをなかったことにしてほしい。今さらなんだけども、最初に知らない世界に飛ばされた?時からあんまり元の世界だとか考えなかったなあ。自分でも恐ろしいくらいに楽天的だね?うひょうっ公園発見!日向ぼっこにぴったりだぜーいえー!…こういうところがほんとにね!

見つけた公園の芝生が、いい感じの日当たりだったので爆睡してしまった。よだれ出てない?せっかくのゴージャスヘアーがカピカピになっちゃうわ。口元を触ってみたけどセーフでした。眠る前は綺麗な青空だったのに今は茜空。うーん、寝すぎた(確信)。人っ子一人いない…こともなかった。ベンチのところに男の子が一人いた。膝を抱えて顔を埋めてるのでよくわからないけど横にランドセルが置いてあるから小学生っすね!帰らないのかしら…と思いながらそばに寄ってみる。とんっと軽やかにベンチに飛び乗り少年の隣、一人分ほど離れたところに座った。軽やかすぎて気付かれないどうしよう。もしかして寝てるの?風邪ひくよ?…私が言うことじゃないな。寝てるなら起こしたほうがいいのかな~と前を向いてぼんやり考えていたら視界の端で動く気配が。お、起きた?



「…えっうわっ、よ…妖怪!?」



誰が妖怪やねん。うっかり声に出すところだったわアブナ~~~猫見て妖怪ってどういうこと?たしかに普通の猫よりデカいしあんまり外でお目にかからないメインクーンですけども!しかし悪魔の実を食べて普通の人間ではないしある意味妖怪か?いややっぱ妖怪は違うよね?そしてこの少年、この儚げな美少年感と妖怪発言からして、もしかして夏目貴志くんじゃない?何にせよ妖怪と思われるのも困るし警戒されるのは嫌なので、知らぬ存ぜぬスタイルを貫き通す。全然眠くないけど小さく欠伸をこぼすフリをしてベンチに寝そべる。見よこの、無防備な姿を!



「…じゃない、?ふつうのねこ?」



「も、もこもこ…」と呟く夏目少年(仮)。その姿を見ずともわかるぜ…そわそわうずうずしているのがな!触ってもいいのよ。彼のほうに向いている自慢の尻尾をゆっくり揺らしながら待っていると背中あたりをそっと小さな手が撫でた。



「、わあっ…すごい…!」



うん、すごいよ…君の可愛さが…。触っても大丈夫と分かったからかベンチから降りて私の真正面に来た少年はそっとそっと、触れてくる。ほんのり頬を染めて小さく感嘆の声をあげる様子は正直、くそ可愛い。

少年が満足するまで付き合い、この後どうするかを考える。そろそろ帰らないと危ないよね?妖怪的な意味でも悪い人間的な意味でも。こんなかわいい坊やがいたら連れて帰りたくなっちゃうよね?そんなやつは私が必殺猫パンチをお見舞いするわけだが。冗談はさておき心配なので少年が帰るならこっそり家まで見送るつもりなんだけども。伝わるか分からないけどちょっと促してみるか!ベンチから降りると視線を合わせるようにしゃがんでくれた少年に向かって喉を鳴らす。すると寂しげな顔をして俯いた。



「…帰らなくちゃ、」



地面に視線を落としたまま零すように言う少年に私までなんだか寂しくなってくる。でも私じゃ力になれないな、何せ宿無し一文無し。こんなデカい猫連れて帰って飼わせてくださいと言わせるわけにもいかないし。すごく、すごく!名残惜しいけどもこれ以上引っ張るわけにもいかないので、さよならまたねの挨拶に愛をたっぷり上乗せして少年の鼻先に自分のをちょんと押し当てる。突然のことにぽかんと口を開いていたけどすぐに目を潤ませてぎゅっと抱き着いてきた。



「、ぅぅ…!…わ、ふあふあ、!」



やべえ泣かしたと思ったがそれよりこのゴージャスヘアーへの感動が勝った模様。よかった。気持ちいいあたたかいと言いながら顔を埋めてくる。少しすりすりと小さく動かし最後にきゅっと一瞬力を強めた後そっと離れていった。



「…ねこ、ばいばい」



そう言ってランドセルを背負い少年は公園の出口へと向かっていく。そして私はすげー心配なので気付かれないように後を追い、彼が家に着くまでついて行った。公園からそんなに離れていない所だったし問題なく見届けられました。夕焼け独特の雰囲気か、少年の纏う空気か、そのどちらもか、釣られていつになくおセンチな気分だぜ。ぜひともまた会いたいなあ。
おセンチな気分


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