バァーン。そんな効果音が聞こえそうなほど見事な登場を見せた金髪美少年の姿についに来たかとシリアス顔でキメてみる。散歩から帰ってきたら馬車が止まっていたのだ。降りてきた彼はジョナサンと挨拶をしていたので少し足早に近づく。この日が来たらまず最初に私はこれをやると決めていた。ジョナサンが握手をしようと手を差し出したところでワンワンと声を上げながら楽しそうに駆け寄ってくるダニーに二人の視線が向く。



「ダニーッ」



紹介するよ、と膝をついてダニーを受け止めようとしているジョナサンに金髪美少年ディオは鼻を鳴らした。その足がダニーを傷つける前に彼らの間を走り抜ける。私を見た途端その場に留まって嬉しそうに飛び跳ねているダニーのそばをも通り過ぎ「ついてきなダニー坊や…」と言わんばかりに肩越しに一度だけ振り返った。このダニー、出逢ったころから私にメロメロ(語弊)なので本日現れたニューフェイスのことなど一瞬で忘れてぐるぐる周囲を回りながら並走してくる。愛いやつめ。これで最初の蟠りは生まれずに済んだだろう、と思ったのだけども。



「き、君は今!ダニーを蹴ろうとしたのか!?」



ディオが足を上げようとしたのをしっかり見咎めていたみたいだ。結局その後ジョースター卿と顔を合わせて、ダニーの事はもういいねと宥められるジョナサン。ダニーが痛い思いをするのは避けられたけど蹴られそうになったという事実は消えなかった。ううん、難しい。

ディオ少年がジョースター家にやってきてから早数日。彼は私の記憶にうっすら残っている通り、ジョナサンぼっち作戦を決行しているようです。ジョースター卿の躾も厳しくなったし友人たちはあらぬ噂を信じて自分を避けだしたと随分落ち込んでいた。徐々にジョナサンから周囲を取り上げるようにしつつその傍ら、猫は嫌いではないのか、犬よりはマシだとでも思っているのか。敷地内をうろついていると何度も顔を合わせるわけだが、私は特に邪険にされるようなことはなかった。ジョナサンのように見かけるたび声を掛けてきたり嬉々として寄ってきてくれるでもないけど。彼が読書をしている所が気持ちよさそうだったのでお昼寝をしようと寄っても何も言われないし、逆にこちらが日向ぼっこしているところに現れることもある。何というか、あれですな。互いに我関せず状態ですな。



「やあ 、だったかな…?お昼寝かい?」



と思ってたら普通に話しかけてきた。バルコニーのチェアを陣取ってぼんやりしているところに現れたディオ少年は笑みを浮かべてこちらを覗き込む。いつもなら何も言わずに空いてる方に腰掛けるのにわざわざ「隣、失礼するよ」と声をかけてくるし座ってからもじっと観察されているっぽい。読書は?っていうか急にどうした…。



「君は…ジョジョとは随分仲が良いんだな」



アッそういうことかあ~!ダニーほどジョナサンにくっついてないし私はぼっち作戦に含まれないのかと思ってたけどそんなことなかった。今ジョジョ"とは"ってとこさり気強調してたもんな。タイミング的に考えるとひとつ心当たりがある。昨日の夜、またジョースター卿に叱られたジョジョは気落ちしていたようでそんな彼に寝る前捕まった。一緒に寝ようと言って離してくれないので一晩抱き枕になったわけだけどもそれを見られたのかなと思います。「僕とも仲良くしてくれよ」と口角を上げるディオ少年にとりあえず尻尾を一振りして返事しておく。この人が猫に話しかけてるのってなんか、他の人より面白いな。内心で笑ったバチが当たったのか、さっそくと言わんばかりに抱え上げられ膝の上に下ろされた。思いのほか強引だった。



「良い毛並みだ… フン、余程大事にされているらしい…」



ちょっとやだなんか怖い!何か…含みがありそうな言い方じゃない…?でも撫でる手は優しい不思議。ディオ少年が相手だと色々勘ぐってしまうな。しばらくされるがままになっていたけど、この状態をジョナサンに見せることが目的なのでは?と思いダッと床へ飛び降りて部屋から脱出する。これを機に、妙に絡まれ始めるのであった。

バルコニーでジョースター卿とディオが玄関先で遊ぶジョジョとダニーを見ながらティータイムを過ごしていた時のこと。私はもちろんジョースター卿のところにいた。組まれた足に上手く下半身を乗せて彼の身体にしな垂れかかるように身を委ねている。ディオ少年よく見よ…。住み着いただけなので微妙なラインだけども、ジョナサンに買い与えられたダニーと違って私の主人はどちらかと言うと屋敷の主であるこのジョースター卿であるのだ。私が一番懐いてるのはジョースター卿!と思ってもらえたら良いな~。だからぼっち作戦に巻き込まないで~。二人はダニーについて話していた。



「ダニーにはジョジョに対する友情と信頼があるようだな……」
「友情……犬がですか?」



ジョナサンとダニーが今のように仲良くなるまでの話を聞きながら目を瞑る。分かってたけど、やっぱりダニーは良い子だ。語られた思い出に少し黙り込んでいたディオ少年がそれなら、と口を開いた。



もダニーと同じくジョジョに?」
「ああ、いや……この辺りで彷徨っていたのをジョジョたちが連れてきたのだ」
「連れてきた…」
「何処かの迷い猫なのかもしれん…放っても置けず世話をしている」



「とは言え彼女ももう大事な家族だよ」とゆっくり撫でられる感覚に喉を鳴らす。



とは上手くやれているかな?」
「…どうでしょう ぼくはそうであればと思っていますが」
「ハッハッハッ 気ままな子だからな」



ディオ少年は迷い猫を飼い続けるのかと当然の疑問をぶつけたが、すでに警察には届けていると返すジョースター卿。ジョースター家にという名の猫がいることは一応広まっているらしい。なので飼い主の耳に届けば何かしらアクションがあるはずだと。現代と違いSNSとかないし探すのは難しいだろうね。いや私迷い猫じゃないけど。止められた手に目を開けると優しく見下ろすジョースター卿と視線が合う。「もし飼い主が見つかり離れることになったとしても大事な子であることに変わりはない」と微笑まれた。うわ好き…。
ベストオブジェントルマン


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