猫になれるようになってから、全部が全部ってわけではないけど動物と言葉を交わせるというか意思疎通を図れるようになった。これは基本猫の姿で生活していても元が人間である私にとってとても有難いことだ。お話できるって素晴らしい。なので野生の生き物たちとも比較的平和に物事を解決できるし友好的な関係を築ける。何いきなり語っとんねんって?それはね、今私が軽い現実逃避をしているからだよ…。目の前でワンワンと鳴く声にダブって耳に届くヒトの言葉に、遠くを流れる雲を見つめた。



「ぼくはダニー!君はなんていうの?」



いやワンチャンあるで。ダニーなんて特別珍しい名前じゃないじゃない。「君とっても綺麗だね!」「友達になりたいな!」「どこに住んでるの?」と次々向けられる賛辞や質問に返しながらダニーと名乗るワンちゃんを観察する。白と黒の毛…イングリッシュ・グレイハウンド?グレート・デーン?どっちだっけ?どっちにしろこれやっぱりあの子だよねえ?いやワンチャンあるで。そりゃ、世の中探せばダニーと名付けられたイングリッシュ・グレイハウンド?くらいいるって。そんな私の期待を打ち砕くワンちゃんの飼い主と思わしき少年の声が近づいてくる。



「ダニー!どこに行ったんだい?」



走っているのか、段々大きくなるその姿はまさにジョナサン・ジョースターその人だった。あ~~~もうこれジョジョじゃん~~~!

あれから合流したジョナサンとダニーと無事お友達になり、半飼い猫状態でジョースター家にお邪魔している私だった。悪のカリスマはまだいらっしゃらない模様。ジョナサン、ダニーだけでなくジョースター卿や使用人さんたちまでとても優しく可愛がってくれるので当初はジョジョの世界コワ~と思っていた私もすっかりここに慣れてしまったよ。



「ああ、ここにいたのか」



庭で日向ぼっこしていると耳触りの良い声で名前を呼ばれる。頭を浮かせてそちらを向くとジョースター卿が「一緒にティータイムでもどうかな?」と手招きしていた。はい喜んで~!と口に出せないので身体で表現しながら足元まで素早く移動する。そうするとナイス・ダンディーなジョースター卿は抱き上げて部屋まで連れて行ってくれるのだ!素敵!青い空の下、バルコニーで紅茶を飲むダンディーとその膝の上でゆるゆる撫でられるメインクーンってこれちょっと優雅すぎない?めっちゃ絵になってて使用人さんたちがため息漏らしてるで。(どや顔)



「もう家は慣れたかい?」
「クルル」
「フフ…いつもジョジョと仲良くしてくれてありがとう



こちらこそ色々ありがとうございますなんですけども。大丈夫だよ~私もありがとうだよ~という意味を込めて尻尾を大きく振るとジョースター卿の相好が崩れる。それからしばらくの時間が静かに過ぎていくのを彼と共有してうとうとと意識が微睡んできた頃、ジョースター卿がそうだ、と撫でる手を止めた。



「新しい家族が増えるんだ」



…エッ?新しい家族?ジョジョの弟妹が生まれる…?(現実逃避)そんなわけ~!ジョジョと同じ年頃の子だなんだと話しているジョースター卿の声を聞きながらついにその時がきたのかと例のあの人の顔を思い浮かべる。例のあの人ってそれ違う人や。帝王違いである。



「彼とも仲良くしてあげてくれ」



温かい眼差しでこちらを見下ろすジョースター卿。仲良く…で…きるかなァー!?私はそうしたいけどもすべては悪のカリスマ次第…。

優雅なティータイムを終え再びお庭に出て何となしに散歩していると今度はダニーがハイで駆け寄ってきた。ダニーは私を見つけるといつもハイになるのである。何故こんなに好意的なのかは不明だけどさすがにこっちも絆されるわ。名前を連呼しながら私の周りをぐるぐる回って遊ぼ遊ぼアピールをしているワンちゃんにほっこり。しかし人間の姿ならボール使ったり色々遊ぶ方法はあるんだけども猫としてだと思いつくことが限られていてだな。追いかけっこか寝るという静と動の極論しかなく。そしていつも最終的に私の枕と化すダニーなのであった。



「ダニー!!」



私たちを見つけたジョナサンはすぐ横に腰を下ろし「今日も仲良くお昼寝かい?」と笑みを零す。しばらくは寝ている様子を眺めてたけどやっぱり遊びたい気持ちが勝ったのかウズウズしだしたジョナサン少年。ダニーもそれに気づいたようで、しかし私の邪魔をしちゃいけないと気を使ってくれているのかこっちはソワソワしている。のが目を閉じていても感じ取れる。ダニー良い子すぎない?そんな時は遠慮なく起こしてくれていいのよ。というわけで空気を読んで起きあがった。



「ダニーこっちだ!」
「ワンワン!」
も後でおいでよー!」



元気に走っていく姿を見送っていると途中手を振って叫ぶジョナサンに尻尾で返事をする。行けたら行くね、と。伝わってるかは分からない。しかしジョナサンたちは本当に元気である。ここにいても楽しそうな笑い声が聞こえてくるしダニーもとても喜んでるのが見て取れるので私まで嬉しくなるのだ。ううむ。近々やってくるであろう少年とそれからのジョナサン、ダニーを思いため息を吐いた。ダニーには天寿を全うしてほしいな。
まもりたいこの笑顔


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