未来のあの子




雄英高校においてと言えば、科や学年関係なく割と有名な生徒である。何かと話題になる1年A組の中でもリカバリーガールの補佐をしていたり他科の活動に協力的であったりするという点とシンプルに本人の性格と個性のおかげで動物好きの心を掴みやすいという点で、交友関係が広いのだ。なので経営科やサポート科の課題や発明品のお試し等もよく頼まれては、時折ちょっと大変な事になって先生に注意を受けることもある。大きな音と共に部屋中白い煙に覆われ誰かが急いで扉を開け、互いの姿を認識できるくらいになったサポート科生徒たちの目に映ったのはきょとんと瞬きをしてこちらを見ている我らがユキヒョウガール。の、成長した姿。



「「「っあああ~~!!!成功だァ~~~!!!」」」



可愛い、綺麗、と周りを囲まれ困惑した様子のは、10年後の未来からよばれたのだった。

とんでもない実験を行った生徒は案の定教師陣にこってりねっちょり絞られたし発明した装置は大人をよんだこの一回で盛大に壊れた為落ち込んだが、成功は成功だしまさか本当に未来のとお話できるなんて思わなかったので結果的に万々歳である。の健康状態や記憶障害が無いか調べ、特に問題がないとされたが教師陣はやっぱり頭を抱えた。こんなこと表には出せないので元に戻るまで寮で大人しくさせておくしかない。幸い、事が起こったのは放課後だったので周囲を警戒しつつ寮に戻れればあとは問題ないだろう、ととりあえずに制服を着せ相澤が寮まで付き添った。



「何でもかんでも引き受けるな、警戒心を忘れるな、と何度も言ったはずなんだが」
「す、すみません……」



今のに言っても仕方がないのだが、言わずにはいられない。少し背が伸びているようで近くなった頭にぽんぽん、と手を乗せた。大人にとっても災難と言えばそうだろう。コスチュームを着てたあたり仕事中だっただろうしどちらかというと被害者である。頭を撫でられ一瞬驚いたの「先生に撫でてもらうの久しぶりです」とはにかむ顔が記憶の中のそれより大人びており喉がぐっとなった。



「……とりあえず、お前には悪いが寮から出るなよ」
「はい!」



寮の入口付近に着き、極力クラスのやつにも会わないようにしてほしいと言いかけたところでドサッと何かが落ちる音がして二人揃ってそちらへ目を向ける。一番会わせたくなかった男が膝をついて震えていた。



「おっ…大人の~~~!?!?」



一瞬で大人と判断できるあたりが峰田という男を物語っている。「そんなに老けましたか!?やっぱり!?」と焦っているに、峰田に関しては多分そこではないと痛む頭を押さえる相澤だった。

峰田に見つかった上しっかり叫ばれたおかげで様子を見に来た何人かとも顔を合わせてしまいクラスメイトにも極力会わないという話は口に出す前に消え、現在共有スペースのソファで女子に挟まれにこにこしている。相澤は事情を説明し口外しないよう念を押してさっさと教員棟へ戻って行った。



「本当に10年後のちゃん!?」
「とても綺麗になったのね、素敵よちゃん」
「わあ~ありがとう~っ」



背丈や顔立ちが少し変わり佇まいも女性らしくなっているが「照れちゃうな~」と頬を染めて微笑む姿は確かに皆が知るだ。周りが盛り上がってる中、の隣に座る八百万はご機嫌に揺れる尻尾を触らせてほしいと頼み、二つ返事で身体に寄せられるふわふわのそれをぎゅっと抱きしめた。10年経っても変わらない毛並みにご満悦である。



「それにしても災難だな~」
こういうの多くね?他人を信用しすぎちゃダメよッ」
「ごめんなさい瀬呂ママ……」



相澤にもしっかり注意をされた為、過去の自分の事とは言えどやっぱり面目ない気持ちでいっぱいだ。砂藤が作ってくれたガトーショコラを頬張りながら落ち込む。ガトーショコラおいしい。感情に合わせてぴこぴこ動く耳も相変わらずだなと一同はなんだか安心した。今は改めて用意されたらしい制服を着てるがしっかりプロヒーローとして活躍しているらしい未来から現れた同級生、というのは遠い存在になったような、未知の感覚で最初こそこの珍事に興奮するばかりだったけど時間が経つにつれ色んな感情が渦巻いてくる。どんな生活をしているのか、その未来で己たちはと同じように活動しているのか。気になること、聞いてみたいことはたくさんあるが知るべきではないような聞いてはいけないような。誰しもがその事で頭がいっぱいで浮ついていた。



「なんというかアレだな…」
「おう…アレだ…」
「ぶっちゃけお仕事どんな感じ!?」
「おあっ言った すげーな芦戸」
「うーんそうだなあ…」



そりゃあ未来からきた人間なんて珍しい存在に、気になることはいっぱいあるだろう。も皆の空気感は把握していた。とはいえ、余計なことを言ってこれからの未来に何か影響が出ても困るし話題の選択が難しいところだと思いつつヒーローとしての仕事を少し話すくらいなら大丈夫だろう、今でもネットやニュースを調べればプロの活動を知れるのだしその程度のことなら問題なさそうだと軽く抜粋して伝える。

プロとしての活動を話しているの顔はやっぱりどこか大人びていてA組の一面もいつの間にか話に聞き入っていたらそこそこに時間が過ぎていた。気付けば最初はいなかった爆豪や轟、常闇などもいて結局全員勢ぞろいである。



「ちらっと事情はきいたけど……あんま変わんねえな」
「あはは、10年じゃそんなに変わらないのかな?」
「オイオイ轟くん~そこは綺麗になったねって言うとこだろ~?」
「そうか、悪ィ は元々可愛いから」



変わらないと思って。いつもと同じ調子で続ける轟に峰田と上鳴と芦戸は絶叫した。爆豪の盛大な舌打ちが鳴り響き、叫びこそしなかったが他の面子も轟はこういうところがあるよなと言葉なく頷いていたら、言われた当の本人は「轟くんも変わらないな~」とのほほんと笑っており。そりゃ轟は未来から来たわけでもないのだから変わらない、もこういうところがあるな。周りの空気にそろって首を傾げる二人を余所に「そういえばよ、」と切島が口を開いた。



「今日一日戻れねえのかな?」
「わからないの、試作だったからそんなに長くは続かないと思うって」



そんな曖昧な実験に手を貸すな。全員の心が一つになったので改めて飯田や保護者組から注意を受けるだった。未来のに言ってもあまり意味がないのだが。そしての尻尾を抱きしめながらぷりぷりしていた八百万が真っ先に異変に気付いた。



さん…!尻尾が消えかかってますわ!」
「え?わあ、じゃあそろそろかな?」
「え~!もうちょっと未来のちゃんとお話したかった!」
「えへへ、皆今日はありがとう~っ」



「これからも私をよろしくね」

にっこり笑って手を振るは来た時と同じように大きな音と共に白い煙に覆われ、それが消える頃にはいつもの見慣れた姿のがきょとんと座り込んでいた。



「アッちゃんや~!!」
「オッオカエリッ」
「た、ただいま……またもやご迷惑をおかけしまして…」
「イ、イエイエ」
さんのお身体に問題がなければそれで…」



にとっても急な帰還な上まさか全員そろってる中迎えられると思っていなかったので状況把握まで少し時間がかかったのだが、クラスメイト達もえらく動揺した様子で。確かにいきなり未来の人間が、だのそれがまた突然帰る、だの驚くよねと集中する視線を受けていた。それにしては驚いただけというより変な空気感があるなと皆の顔を見回していると中には顔色が悪い人もいるし食卓の方で腰かけていたらしいあの爆豪ですら立ち上がって信じられないものをみる顔でこちらを向いて固まっている。



「み、みんな…?どうかした…?」



A組生徒一同は確かに見たのだ。戻ってくるであろう己を託してにこやかに消えていった未来の。そのときも丁寧に全員を見回して一人一人に手を振って消えていった未来の、その左手の薬指に光るモノがあったのを。



「…いや、えええええええ!?!?」
「イヤイヤイヤイヤ」
「どんな爆弾落として帰ってんの!?!?」
「エッ爆弾!?!?」
「どどどどういうことちゃん!?」
「爆弾なんて持ってないよ!?」
「持ってたよ未来のちゃんナニアレ!?!?」
「エッッッ!?!?」



答えを知る者はもうこの場にはいないのでどうしようもないのだが、騒ぎが落ち着くまで相当な時間を要したのであった。