モフモフ・デイ




職員室に入った途端、顔目掛けてとんできた何かに視界を覆われる。このもふっとした毛の感じにぬくもり。相澤は一瞬でコレが何なのか理解した。またやりやがったなコイツ。



「イレイザー…」
「いえ、もういいです解りました」



最初に掛けられた声がパワーローダーからのものという時点で全てを察した。とは言え一応流れは知っておかなければならないか、と顔に張り付いたモフモフを剥がしながら聞けば案の定またサポート科の生徒が開発した薬だそうだ。同一犯の犯行である。いや犯罪ではないが。その生徒もこのモフモフも学習しないな本当に、痛む頭に眉を顰めるも起こったことは仕方がないのでとりあえず腕の中で大人しくしている白い塊に目をやるとこちらを見て首を傾げていた。



「意識や記憶は」
「恐らくないな…完全にユキヒョウモードだ」
「ハア~……」



そのパターンだと授業も受けられないし、人間時の意識がないときの彼女には何故か己が一番懐かれているという自覚があるのでこうなると戻るまで一緒に行動しなくてはいけなくなる。本当に……、悪くはない。(猫好きの性)

という生徒は明るく素直で元気だが騒がしいタイプとはまた違うのでユキヒョウになっても基本的に素直で大人しいのだ。デスクワークをしていても邪魔になる事はないので膝にのせて作業ができるしぬくもりと匂いに癒されるし時折動く尻尾と耳が可愛い。自分に倣って机の方を向きモニターを見ていたがしばらくすると身動ぎしてくるっと反転し肩越しに後ろを見る。



「どうした、何かあったか」



聞いても返事はないのだが、肩に前足を置いて少し身を乗り出していたのを止めそのまま身を預けてじっとしているので軽く頭を撫でるとすりすりと額を押し付けられた。アニマルセラピー万歳。ここまでの仕事の疲れが吹っ飛んだ。ふう、と一息ついて再び仕事に取り掛かる。そんなことを繰り返しているとあっという間に昼の時間になり、己はいつも通りゼリー飲料で済ませる予定なのだがをどうするかと見つめ合っているとミッドナイトがやってきた。



「ユキヒョウちゃんのご飯、ランチラッシュから預かってきたわよ」
「どうも、助かります」



事情を聞いていたらしいランチラッシュが鶏肉を用意してくれたようで、食べさせたいというミッドナイトに任せて自分はさっと済ませ見守る。離れようとしないので膝に乗せたまま、口に運ばれるのをもぐもぐと咀嚼しているユキヒョウの懐きようにミッドナイトは悔しがっていた。



「ホントよく懐いてるわよね~」
「担任だから?でも意識ないんだよな?」
「猫好きオーラが伝わってンのかね」



教員達の視線を集めつつ、残りの仕事や終わりのHRをこなして放課後。部屋に戻ろうと片付け始めるとそれに気付いたのか膝から飛び降りてちょこんと座り待つユキヒョウにミッドナイト達が「さようなら~」「またな!」と次々頭を撫でて挨拶していく。それを全て大人しく受け、己が隣に立つとピンッと尻尾を伸ばし立ち上がった。寮までの道のりを軽い足取りで並んで歩くモフモフはすれ違う人の視線を集め続けたが気にする様子もなくひたすらに己に寄り添っていて、一番懐かれているという自信が爆上がりである。

部屋につくとキョロキョロと見回しながらぽてぽてとあっちへ行ったりこっちへ行ったりしてるのでしばらく眺めて、部屋でできる仕事をある程度済ませておくかとデスクに向かった。だから心配いらないだろうとしたいようにさせていたら軽やかなジャンプでデスクに乗ってきたモフモフが至近距離でこちらを見つめてくる。



「どうした、好きにしてて、」



いいぞ、と。言っている途中でちょんと鼻先同士がぶつかった。続けて、口を開いたまましばし固まる相澤の頬に頭を中々の力で押し付けてくる。あまりに押してくるのでとりあえず抱き上げてベッドの方へいくとゴロゴロと機嫌が良さそうに鳴る喉。ユキヒョウは実は割とかまってちゃんなのだ。何となく仕事場の空気は読んでいたがもういいだろと言わんばかりに甘えてくるモフモフに相澤は考えることを放棄せざるを得なかった。



「とは言え、遊び道具はないんだがな……」



が撫でてくれと要求してくるところをひたすら撫でるしかできないのだが。それでもずっとご機嫌に大きく揺れる尻尾をみる限りこれで良いらしい。が満足するまでそうしていたら疲れたのか気付けば己の腕を枕に寝入っていた。



「寝たか」



寝相なのか暑いのか分からないがぐ、と手足を伸ばして身体を押してくるのでそろそろやりかけの作業も片付けなくてはならないしと身を起こして腕を抜こうとしたらギュウウと掴まれる。腕を抱き込んで離さないアイスブルーの瞳と見つめ合うこと数十秒。相澤は諦めてもう一度寝転んだ。モフモフに勝てるワケがなかったのだ。しかしこれはこれ、それはそれ。翌日元に戻ったはしっかり怒られるのである。