どんなキミでも可愛いね
『記録指針』により導かれ立ち寄る島々では基本的に船番以外は上陸することが多く今回もは島に降り立っていた。大抵はルフィかナミに誘われついて行くのだが今日はチョッパーと森の中を散策している。珍しい薬草があるかもしれないからと籠を持つ小さな背中の手伝いができればと思ったのだ。己も籠を持って草花の説明をしてくれるチョッパーの話を聞きながら木漏れ日の中を進んでいく。
「、おれと一緒でよかったのか?」
「うん」
「薬草探すだけだしつまらないだろ?」
「楽しいよ」
こちらを気遣ってくれているらしい様子に「チョッパーと一緒だから何でも楽しい」と本心から言うと彼ならではの眦を下げてくねくねと照れ隠す動きが見られてこれがまた可愛らしい。にとってチョッパーに限らず麦わらの一味と一緒に過ごす時間はいつだって満たされるものなのだが、癒され度は高いかなと足取り軽く前をいく小さな船医にほんの少し口角をあげる。結構奥まで来たかというところでチョッパーからいくつか薬草を見せられ同じものを集めてほしいと言われたので心得たと頷いて探していた時にそれが目に入った。鮮やかな色をした花に、綺麗だがこういうものほど毒があったりするのだろうなと眺めていたら案の定だったようでチョッパーからそれは良くない花だから触れないようにと言われ少し寄ってしまっていた顔を離し、目的の薬草探しを再開する。
「……くしゅっ」
「?大丈夫か?ちょっと冷えてきたな」
「大丈夫、寒くない」
「そうか?でも結構集まったしそろそろ戻ろうっ」
実際寒かったわけではないのだが、集中していたのか思っていたより時間も経っていたようで気付けば陽の位置も下がってきており夜には出航しなければならないのでほど良いところでサニー号へ戻ることにした。「のおかげで思ってたより摘めたゾ!ありがとなっ」とにこにこしているチョッパーにも小さく微笑む。
海上にて各々朝を迎える中、女部屋でナミの絶叫が響き渡った。何事だと男性陣も駆けつけたが扉から出されたナミの手によりチョッパーだけが部屋に入ることを許されしばらく、状況が分からず騒いでいたサンジやウソップ達の前にやっと叫び声の原因が現れる。
「かっ…なっ…!?!?」
「え、これ、か!?」
「えー!?がちっさくなってる!?」
ルフィの言葉通り、はずいぶんと幼い時分の姿になってナミの腕に抱えられていた。チョッパー先生曰く昨日上陸した島にそういう効果がある花が生えていたから花粉を浴びてしまったのだろうということで。が近寄っていたのにもっと早く気付いていればと落ち込むチョッパーにがナミの腕から飛び下り、己の不注意で自業自得だからと落ちた肩を慰めるようにぽんぽんと叩く。
「……エヘヘ!かわいーな!」
落ち込みはどこへやら、おれとおなじ目線だな!とへにゃへにゃしているチョッパーに「「「おい」」」と多数ツッコミが入った。調べた感じから身体が小さくなっていること以外特に異常はないようで、身体も時期に戻るだろうと様子を見ることになり「めんどうをおこして、ごめん」と頭を下げるにサンジが膝をつき声をかける。
「面倒なんてこと有り得ねェさ さ、顔をあげてくれプリンセ、」
「サンジ……ありがと」
「ス……!!……ヴッ!!カワイイッッ!!」
「サンジー!?しぬなー!?」
幼女に見上げられてぶっ倒れるサンジにゾロは心底軽蔑した目を向けた。しかし小さくなったにメロメロになっているのはサンジだけではなく。特にナミがすごかった。最初の絶叫も驚きプラス可愛さに対する黄色い声だったようで今も再び抱き上げようと手を伸ばしている。
「ナミばっかずりー!おれにも抱っこさせろよ!」
「ダメよ!あんた危なっかしいから!」
「そうだぞクソゴム!お前には任せられねェ!」
ルフィもを抱えようとしていたのだがその手をさっと避けるナミといつの間にやら復活したサンジに邪魔されかなわずで頬を膨らませた。
「いいだろ!ケチケチすんなよナミ!」
「しつこい!殴るわよ!」
「いってェ!もう殴ってんじゃねェか!」
「きゅう……」
「フフ、が苦しそうよナミ」
「アラやだ、大丈夫?」
胸に押し付けるように抱き込まれていたせいで上手く呼吸できなかったところをロビンに助けられほっと息を吐く。心配そうに覗き込んでくるナミと、そっと頭を撫でてくるロビンに「だいじょうぶ」と小さく微笑んだのだがその笑顔をみたナミがまた興奮して力を強め今度は激しめの頬擦りのオプションまでついてきたのでさすがに困惑して周囲を見渡すと呆れたように状況を見ていたゾロと目が合った。見つめ合うこと数秒、居心地悪そうに頭を掻き大きなため息をひとつ。
「ハア~……おい、トレーニング付き合え」
「わ、」
「あっちょっと何すんのよ!」
「てめックソマリモ!そんな小さなちゃんにあぶねェことさせんじゃねェ!」
「重りくらいにはなんだろ」
ナミの腕から強引に引っ張り出し、ブーイングの嵐を受けながらゾロはを連れて行った。
重りくらいにはなるだろうとトレーニングルームに連れて来たが、掴み上げた時の感覚からして大した負荷にはならなそうだと「たすけてくれてありがとう」と頭を下げているを見やる。あのまま放っておいたらもみくちゃにされる未来が容易に予想されたので、この普段から大人しく主張の少ない女には少し不憫だろうと思えたからアイコンタクトに応えただけで本気でトレーニングに付き合わせようと思ったわけでもない。まあも身体が小さくなっているだけで中身はそのままのようなので子守の必要もないだろと後は好きにさせることにした。
「1546…1547…15、」
「ちゅわ~ん♡ ティータイムにしよォ~?」
「静かに入ってこれねェのかてめェは!」
「クソマリモに用はねェ!」
大きな音を立てて開かれたトレーニングルームの扉からクルクル回りながらやって来たサンジがベンチに座ってゾロの筋トレを眺めていたの足元に跪く。差し出された手とゾロを見比べていると「一旦休憩にするか」とゾロも器具を置いたので頷いてサンジの手にちょんと小さくなった手を重ねた。
「ちゃん、抱き上げても?」
「……自分で歩ける、」
「クゥ~~~!小さくなってもしっかりやさんなキミが好きだァ♡♡♡」
「めんどくせェ 行くぞ」
メロメロと身体をくねらせ目をハートにしているサンジをスルーしてさっさと片腕に乗せ部屋を後にするゾロ。突然視界が高くなりゾロにまた掴まれたのだと理解したは一瞬身を縮こませたがその安定感のある腕にほっと力を抜き、肩越しに振り返って背後でブチ切れているサンジを呼ぶ。
「サンジ、……えっと、今日のおやつは、」
「今日はねェ~フルーツコンポートだよ~♡ ちゃん好きだろ?」
「……! うん、すき」
「…!?!? ぷ、プロポーズ…!?!?」
「アホか」
フルーツコンポートが好きだと答えただけで衝撃貝の攻撃を受けたのかというくらいの勢いで倒れるサンジに思わず身を乗り出すが今の行き先はゾロに委ねられているので「いつものことだろほっとけ」とスタスタ進まれて距離は開く一方である。まあ、たしかにいつものことなのだが。すぐにゾロへの怒りを叫びながら走って追いついてきたのでやはり心配はいらなかったらしい。
もぐもぐと色とりどりのフルーツを頬張るに一味中の視線が集まる。あのルフィですら、黙って見つめていた。とんでもないスピードでフルーツを平らげてはいるが。
「子どもになっても大人しいなあは」
「精神はそのままだからな!」
「でもホラ食べにくいでしょ?あーんしてあげるってば」
「だいじょうぶ……ナミ、だいじょうぶだよ、」
大丈夫だと言っているのに、ナミはどうしても世話を焼きたいのかスプーンを取り上げられてしまったので大人しく差し出されるものを口に含んだ。パッと見では分からないその表情の変化もルフィ筆頭に一味レベルになれば分かるようで、珍しく眉が寄せられていることから現在少し不服に思っているらしいことが伝わり、それに対してナミは膨らんだ頬をつん、とつつく。
「むぅ……」
「カワイイ~~~!!」
「ほんっと かんわいい~~~♡♡♡」
「フフ 昔からこんな感じだったのかしら」
「もっとわかりにくかったぞ!」
唯一11歳頃からを知るルフィは口いっぱいのフルーツを飲み込み、当時のを思い浮かべて笑った。あの頃に比べると自己主張もするようになったし表情もわかりやすくなったと言う。
「幼い頃から大人しいお嬢さんだったんですねえ」
「もっと甘えりゃイイ まだまだ嬢ちゃんなんだからよ」
「そーよ!ホラ、ナミお姉ちゃんって言ってみなさい」
常日頃から他のオープンな仲間に比べて何かを求めてくることも少ないにはブルックやフランキーといった大人組にも思うところがあったようで、彼らの言葉にナミも大きく頷いた。お姉ちゃんはお前が言われたいだけだろとウソップは呆れた視線を寄越したが、これを機にもっと心を寄せてくれれば良いというのはブルック、フランキー、ナミに限らず皆が思ていることであるのは間違いない。その後も元に戻るまで一緒にシャワーを浴びる一緒に寝る姉と呼べとナミに絡まれ続けたはちょっと疲れた顔をしていて、でも嫌がっているわけではなくどちらかと言えば良い感情を持っているのだろうと理解したロビンは他人に気を許せなかった自分と少し重ね、嬉しそうに微笑んだ。