ラブなん?
この春雄英高校に入学してきたヒーロー科1年の爆豪勝己と言えば直近の行事、体育祭での言動も相まってキレ散らかしているイメージが強く持たれている。彼と過ごす時間が長いA組クラスメイトも、他の生徒たちより慣れと理解があるとはいえ爆豪勝己と言えばよく怒るという印象が強いだろう。それでも雄英ヒーロー科、中学の時の怯えて距離を取ったり逆に持ち上げてついてきていた周りの同級生とは一味違いそんな爆豪相手でも物怖じせず絡んでいるし特に切島や上鳴、瀬呂なんかはよく行動を共にしているのだが、幼馴染である緑谷に対して特に当たりが強い爆豪なので彼らはなんだかんだ自分たちが爆豪と一番距離が近いんじゃないかと思っていた。食堂で爆豪が女子とご飯を食べているところを見るまでは。
「……あれ女の子だよな?」
「どう見てもそうでしょ」
「ヒーロー科じゃなさそうだよな」
こちらに背中を向けているのでふわっふわのボリュームある髪しか見えないのだが華奢だしまずスカート履いているし女子生徒で間違いないのだろうけど、向かいに座っているのが爆豪なおかげで信じがたい。見知らぬ生徒がたまたま空いてる席に着いたら向かいに人がいた、ということなのだろうかとも思ったのだが何やら爆豪が話しかけているっぽいのでその説は薄くなった。いや、まさかと思うけど?
「カノジョ…?????」
「いや…まあ…」
「なあ……」
他のやつが女の子と2人でご飯を食べていたら「彼女かよ~~~ひゅ~ひゅ~羨ましいなコノヤロー」と半分の確信と半分の揶揄いを胸に絡みに行けるのだが相手が爆豪なおかげで以下略。普段の爆発さん太郎具合を考えるとあいつ彼女とかできんの???ムリじゃね???という感情しかない。とりあえずせっかく買った定食が冷めそうだし食べたいので2人を観察できる場所に揃って腰を下ろす。しばらく見ているとどうやら爆豪が世話を焼いている様子で、その女子生徒のから揚げ定食に自分のお肉を足してあげたり添えられているサラダにドレッシングをかけてあげていた。だいぶ意味わからん。
「カノジョ???」
「うーーーん」
「なあ……」
ずっと混乱している。目の前に置かれたものをもぐもぐと頬張っている女子生徒のお水が減ったら2人分のコップを持って足しに行く姿に混乱を極めた。優しいな?爆豪って人に優しくできるん?上鳴の失礼な感想を咎める人間はいなかった。爆豪がいない間のその子は気付けばうつらうつらと船を漕ぎ始めエッ寝てる?と思ったところに戻ってきた爆発さん太郎は「食ってから寝ろ」と声を掛けている。ご飯のお世話してあげてお水入れに行ってあげて食事中に寝ても怒らない爆豪勝己はちょっと知らない人ですね。だって眠そうにしてる女の子にご飯食べさせようとしてたもん。びっくりして3人はご飯をかき込み早々に食堂を後にした。
その後仲が良いとは言えないけど緑谷なら何か知ってるのでは?と思い聞いてみたら緑谷を含め3人は幼馴染だということだった。なーんだ幼馴染か!とはならない。相手はあの爆豪以下略。緑谷との態度が違いすぎね?という上鳴の言葉に黙って頷く切島と瀬呂。緑谷は苦笑いしていたが、曰く昔からその子、羽角ちゃんにだけは随分と甘いらしい。ついでにシベリアワシミミズクという個性で日中もよく寝ていると教えてもらい食堂で揺れていた頭の謎も解けた。ちなみに羽角ちゃんは緑谷との仲も良好だそうだ。
「あの感じで可愛い幼馴染がいるのはズルすぎじゃね?」
「こないだ図書室でうたた寝してるちゃん見たわ」
「俺ふらふら歩いてたから大丈夫かと思ってたらフクロウになって木の上行くとこ見たぜ!」
一度その存在を認知すると見かける回数は当然増えるわけで、校内でうとうとしているをよく発見することになる。ふわふわしてて可愛いなあ。3人は毎回ほっこりしていた。集まって話をしている近くを通りかかった緑谷を捕まえ先日聞きそびれた2人の今の仲について質問する。
「ど、どうだろう…付き合ってはないと思うけど…」
「そうなん?」
「たぶん…そういう話は聞いたことないけど、」
「かっちゃんはわざわざ僕に報告しないだろうけどちゃんは言ってくれると思う、いやでもちゃんだからな…」とブツブツ考えている緑谷に、まあ確かに爆豪が緑谷に伝えることはないかと納得した。しかし付き合っていてもおかしくない距離感ではあるというのでそれにも納得である。2人でいるのを見たのは食堂での一回だけだがよく知らない自分たちでもそう思うのだし、幼馴染の緑谷がいうのだからあの距離感はただの男女の幼馴染というだけで終わらすには近すぎる気がするのだ。
「ほぼ毎日会ってただろうし、」
「まあ学校一緒だもんな?」
「うん…でも休みの日とかもたぶん」
中学に入ってからは特に自分はちゃんとは知らないけど、と続ける緑谷。登下校もほとんど一緒だったようで、他の男子などとつるんで遊ぶときははいなかったがそれ以外では様子を見に行っていたらしい。様子を見に行くとは、と思ったが彼女は感情表現など自身のことをあまり発信してこないので幼いころからチェックするのが爆豪の役目になっていたそうだ。
「ちゃんがどこにいても大体見つけるし」
「へ~!」
「かっちゃんの方は絶対ラブだよな?」
上鳴がそう言った瞬間、緑谷が真っ青になり「どしたん」と言葉にする前に頭に猛烈な痛みが襲い掛かる。
「勝手にペラペラしゃべっとんなクソナード!!!」
「ごごごごめんッ」
「いたたたた割れる割れるッ」
「ちゃんにはあんなに優しいのに」
「名前呼ぶな殺すぞ!!」
ボンボンッと爆ぜる音に慌てて謝る4人にクソでかい舌打ちを残して自分の席へ向かう爆豪。それを見送り、上鳴が口に手を当て緑谷に囁く。
「えっラブだよな?」
「う、うーん…あはは…」
次こそしっかり爆破された上鳴であった。
混み合う食堂はピーク時は席の確保が難しいときも当然ある。昼を誘おうと思ったらすでに爆豪の姿がなかったので上鳴、切島、瀬呂は3人で食堂に向かい注文を済ませ空いている席を探してたのだが次々埋まっていく中で複数席が空いているテーブルの端にぽつんと座っているを見つけた。3人で顔を見合わせ、そこへ足を進める。「ここ良い?」と声をかけると数秒見つめられこくんと頷きだけが返ってきてお礼を言いながらそれぞれ椅子を引いていると爆豪が物凄いスピードで飛んでくるではないか。
「オイコラ…!」
「えっちゃんが良いって」
「勝手に名前呼ぶな…!!!」
今にも爆破しそうな爆豪はそれでも丁寧に2人分のお盆をテーブルに置く。それを目で追っていたがふと立ち上がってどこかへ行ってしまった。「あ?」と声を漏らした爆豪はその後何かに気付いたようで大人しく席につく。上鳴たちも、水でも取りに行ったのか?と思いつつ、とりあえず食事を開始するとすぐに戻ってきたが爆豪のお盆に一味をのせた。それに「サンキュ」と素直に礼を言う姿に3人は咽かける。こわすぎる。
「取って来てくれんの優しいね…?」
「お前らのせいで忘れたンだよ!!!」
「あっ悪い悪い!」
ははっと笑いながら謝る切島に青筋をたてながらが持ってきてくれた一味を麻婆豆腐に振りかけ、静かに食べ始めた。めちゃくちゃ怒ってそうだけど思ったより怒鳴ってこないところをみるに、目の前にがいるからだろうかと予測する。がいると爆豪は大人しくなるのかもしれない。前回2人で食べていた時も確かに静かだったなと思い返しながら、ぱくぱくとから揚げを平らげていくを見ていたら爆豪から厳しい視線が飛んできたのでサッと目をそらし食事を再開し関係ない話しで盛り上がり、少しして。さっさと食べ終わった爆豪に、それより前にお皿を空にしていたが「勝己、」と小さな声で呼びかける。
「ん」
名前を呼ばれただけで察したように立ち上がりの隣に立つと彼女がミミズクの姿になってその腕に飛び乗って、身を預け寝た。そのままもう片方の手で器用に空いた器とお盆をひとつにまとめ返却口へ持って行き食堂を後にする爆豪の背中を観察していた一同は思った。真偽は知らんがもう付き合ってるってことでいいだろ誰も入る隙ねーよ。と。