ゆめうつつ
プロヒーローであり教師である相澤。疲れただ何だと音を上げるような柔な鍛え方はしていないがそれでも一人の人間である。己にも敵にも、受けもっている可愛い生徒たちにだって厳しさを忘れぬ彼だが連日仕事漬けで碌に睡眠をとれていなければ調子を崩すこともあるだろう。相澤としては少し体調が優れないからといって休む気など更々ないし不調は上手く隠し通す方なのだが、我らがリカバリーガールとたまたま呼び出されていたに気付かれてしまってはそうもいかない。久しぶりの休日、空いた時間に仮眠をとると言ったが信用してもらえず「1時間でもいいから寝な」と半ば強制的に保健室で寝かされることになった。リカバリーガールが席を外す間もが部屋に待機している為言いくるめて抜け出すというのも困難だ。こういうときの彼女は思いの外強情なのであった。

普段から合理的に行動する相澤にとってベッドでゆっくり休むというのも久しぶりだったからか、渋々布団に潜り目を瞑ればあっという間に眠りについたらしい。次に気付いた時には目も頭も妙にすっきりしていた。もう充分だろうと身体を起こそうとしたところで布団から投げ出された手に違和感が。何やら温かい重みを感じる。す、とそちらに顔をずらして目を向けると自身の腕をふわふわの毛玉が挟むようにしてあった。毛玉というのは語弊があるか。しっかり手入れが行き届いている絡まることをしらない艶のあるふわさらな毛並みだ。寝起きの目に一瞬毛玉として映ったのはその瞳が閉じられているからかもしれない。ユキヒョウ姿になっているの前足と下顎の間に挟まっている手を見つめながらこれはどういう状況だと考える。何故彼女まで寝ているのか。そもそも何故ユキヒョウ。ものの数秒で考える意味がないかと思い至り腕をゆっくり引き抜いた。



「おい



手を動かせば自然と起きるだろうと思ったのにはすっかり夢の世界に浸っているようで。声を掛けてみても反応がない。常ならば彼女が起きなくともメモの一つでも残してさっさと出て行くのだが先ほどまで手に触れていたあの感覚を思い出すとどうしてもそこに意識がいってしまう。そっと上半身を起こし普通の豹よりも大きい前足に指先で触れてみた。指一本、何度か軽く撫でて様子を伺ったが特に動く気配はない。相澤の手が抜き取られてからは前足の上に自分の頭を乗せる状態で寝ているのだが、後ろ足は床に着いたまま。上だけベッドに乗り上げているこの体勢辛くはないのだろうか。



「……」



猫に限ったことではない、動物の口元は不思議と笑って見えることがある。目を閉じて穏やかに微笑んでいるように眠る表情を眺めているとこちらまで落ち着くなと相澤は小さく息を吐いた。次いで頭に手を乗せるとぴぴっと耳が動いたが深い呼吸は変わらず。毛並みに沿ってゆるゆると撫でふわふわとした手触りをしばらく堪能した後、頭から耳、首元へと手をすべらせ首周りを軽く揉むようにすると尻尾が一度大きく横に振られた。そしてゆっくり開かれる瞼の下から澄んだアイスブルーの瞳が現れる。



「起きたか」



声に反応し軽く顔を上げたは時間をかけて二、三度瞬きをしのそっと身体を起こした。かと思えば目の前にある相澤の胸元に頭突きをお見舞する。不意を突かれた相澤は咄嗟に手で押し返そうとしたがの方が一歩速く、というか頭突きの勢いを止めることなくそのまま圧してきたもので彼の上半身はベッドへ逆戻りした。そのまま相澤と共に寝転ぶように全身乗り上げてくるに制止の声をかけるがまだ夢うつつを彷徨っているのか聞いてない様子だ。身体半分に被さっている重みを退かせようと身体を起こす方向に力を入れながら何度か呼びかけると眠たげな瞳がこちらを見る。しっかり目を合わせ降りるように指示をする相澤の鼻にちょん、とユキヒョウの鼻頭が寄せられた。



「…、」



動きを止める相澤を後目に顔を伏せる。ゆっくり瞬きに頭突き、添い寝というか身体の上に乗って寝る。極めつけに鼻先ちょん。猫の愛情表現に当てはまる行動をいくつも取られ相澤は言葉をなくした。こんなのずるい、可愛いに決まっている。幸せそうに再び夢の世界へ旅立とうとしているに内心震えたもう我慢ならんとふわふわの身体に手を回し段々と顔を寄せる。そうすれば花のような、せっけんのような。それに加えて陽だまりの香りが相澤の嗅覚からあらゆる神経を癒してくれるはずだ。至福の時はすぐそこに。って色々アウトだろ!

「いだっ」



理性を取り戻し勢い良く起きあがれば鈍い音と共に額に中々の衝撃がはしる。反射的に額を押さえながら片目を開けるといつもの、人の姿をしたが同じように額に手を当てていた。



「せ、先生おはようございます」
「……おはよう」



眠りについてからそろそろ一時間経つので起こした方が良いだろうとちょうどそばに寄ったタイミングで相澤が起きた為お互いの前頭部がぶつかった、とまだじんじん痛む部位を摩りながらが話す。



「ぶつけたところ大丈夫ですか?」
「ああ…お前も大丈夫か」
「はい!平気です!」



笑顔で答えるに謝罪をしてベッドから出た相澤は、リカバリーガールとの用事がまだあるからとその場を後にする彼女をじっと見送った。変わった様子はない。言葉通り今起こしに来たところだったのだろうか。ということはさっきまでのユキヒョウは自分がみていた夢ということになるのだが、手触りやぬくもりはリアルだったような。右手を見つめ触れていたはずの感覚を思い出す。夢にしては、と思うもが直前まで寝ていたという感じではなかったし布団も自分がいた部分以外温かくなっていない。



「……フゥ」



単純にリアルな夢だったのだろう。相澤はそう結論付けた。しかし。日頃から猫に癒されたいと思っているがそれがまさか教え子に遠慮なく触れる夢なんて形で表れるとは。せっかく睡眠をとってすっきりしたはずなのに打った痛みとは違う種の痛みに悩まされながら保健室を後にした。どんだけ欲求不満なんだ。と。

猫缶さまへ!
まずはほんっとうに!!!遅くなってしまい申し訳ございません…!!そしてこの度は3周年お礼リクエスト企画に参加していただきましてありがとうございました!猫缶さまからIrbis主で過労死まっしぐらな相澤先生に是非ともユキヒョウちゃんの毛並みを心行くまで堪能させてあげて下さいとのリクエストをいただき「なにそれ楽しそう!!!」と大興奮したのですが先生がユキヒョウちゃんの毛並みを堪能するというシチュエーションを自然な内容でやろうと思うとこのポンコツ脳ではくそほど時間がかかってしまいました…。もしも付き合ったらでやったらええや~~~ん!とひらめいた顔で小躍りするもいや勝手にIF設定にすな…と心の声が止めてくれるという、同じような脳内会議を繰り返し結果夢落ちという安直なお話になりました…。「いやおまコレは!時間かけた割にどういうこっちゃ~~~!」などあらゆるお言葉、猫缶さまからであればすべて受け付けておりますので…!!これに懲りず、また良ければ当サイトに遊びに来てやってくださいませ(;;)これからも猫缶さまや皆さまと、拙いものではございますが小説を通して楽しい夢の時間を共有させていただければと思っております。素敵なリクエストにメッセージ、本当にありがとうございました!