「爆豪くんお湯いっぱい沸かしてる?」
余ったら欲しいと言いながら近づこうとする彼女に「ココアなら入れてやるから向こう行ってろ」と背を向けたまま告げる。素っ気ない言い方でも優しさを伺える発言に緑谷は思わず口を開けて固まった。
「えっいいの?ありがとう~!緑谷くんも何か飲む?」
「あ"あ?」
「ヘエッ!?あっいや!僕は!ダイジョウブ!!」
瞬間こちらを睨みつける赤い瞳から逃れるようにソファの方へ足早に向かう。その後ろをがご機嫌についてきた。"かっちゃんが女の子にココアを淹れてあげる"。何だかとんでもないものを見てしまった気がする、と緑谷は密かに冷や汗をかいた。というか、だ。
「(なんでさんがココア飲むって分かったんだ…!?)」
流れで隣に座ったを横目で盗み見る。テレビを眺めている彼女は当然のように受け入れているがこれはもしや自分が初見なだけですでに何度も行われているやり取りなのだろうか。ふわふわとした雰囲気がそうさせるのか日頃から他の女子を筆頭に面倒見のいい人たちに世話を焼かれている姿を見るのは別段珍しいことではないが相手が爆豪となると話は別で。たかが飲み物を人の分もいれるというだけの些細な行動を彼がやるというのは想像し難い。だというのに実際自分の横には「ん」と彼女専用のマグカップを差し出している爆豪がいる。
「ありがとう爆豪くん!…いつもながら適温!」
「適温?」
「私熱いの飲めないんだけど、爆豪くんがいれてくれるのってちょうど良い温度なのだよ~」
ココアの甘さに頬を緩ませ教えてくれるに緑谷は言葉なく驚き思わず彼女を挟んで奥に腰を下ろしている姿に目を向けた。えっわざわざ温度調整まで?緑谷の中に馴染んでいるイメージが崩れそうな、そんな朝のひと時だった。
子どもの頃から作り上げられてきた幼馴染像との違和感を持ってしまったからか、あれから無意識に爆豪とを見てしまう。一人で行動していることが多い爆豪も共同スペースで切島や上鳴、瀬呂たちと固まって話していることも勿論あるわけで、現在も何やら声を荒げて上鳴などに詰め寄っている。とてもよく見る光景で怖いが安心するという複雑な感情を抱いた。これぞ爆豪なのだがそこにが混ざると先ほどまでの勢いは何処へやら、やはり若干静かになる。
「クッキー焼いたんだけど良かったら!」
「おっまじか」
「サンキュー!」
「爆豪も食う?」
「爆豪くん!甘さ控えめにしてるから~!」
自ら爆豪の傍まで寄り笑顔で待っているをほんの数秒眺め無言でクッキーを手に取った。受け取ってもらえたことが嬉しいのだろう、自慢の尻尾をピンとまっすぐ伸ばしてお礼を言う。そして今度は轟を見つけそちらへとお皿を持って行った。
「今なんでお礼言ったん?」
「作ったのなのにな」
「むしろ爆豪がお礼言う場面だったのでは?」
「無言でもらってたな シャイなんだからこの子はもォ~」
「思春期ですか?」
「思春期です」
「るっせえ!」
がいなくなった途端騒がしくなる爆豪たちに苦笑いを零す。よくかっちゃんをいじれるな、と思っていると上鳴の頭を掴もうとしている爆豪を宥めながら「つーか前から思ってたんだけど」と切島が首を傾げた。
「爆豪っての前だと静かだよな?」
「ああ"?」
「(うわそれ聞いて大丈夫?)」
まさしく緑谷が気になっていたことをド直球に尋ねる切島に漢を感じる。上鳴、瀬呂も一瞬焦りを見せたが結局のところ皆気になっていたことなのだろう、そろって爆豪の顔を見た。
「……あいつデカい音苦手だろーが」
「えっ あっそーなん?」
「言ってたっけ?」
「見てりゃ分かるわ」
「えっ あっそーなん?」
「上鳴大丈夫か」
「まー確かに耳良いもんなあ」
なるほど、そういうことだったのか。いや普通に考えればが音に敏感なのは個性からして分かるが。分かるがしかしそれを爆豪が気遣うというのは分からん。そんなようなことを思っているのだろう、緑谷も含め一同微妙な表情になっていた。細かいことは置いておいてとにかく、彼女の前では大人しいワケは理解できたもののそれと世話を焼いているのはまた別だろう。緑谷の疑問は残ったままだった。
こうして意識が勝手に彼らに向いてしまうからか、逆に今まで何故気付かなかったのだろうというほど2人のやり取りが目に入る。風呂から上がれば一人ソファに座ってつまらなそうにテレビを見ている爆豪がいた。見ているというかぼーっとしている。必要なことを済ませたらさっさと部屋に戻るタイプだと思っていたのだが意外と何でもない時間を過ごしたりもするのか。まあ仲良し、って風ではなかったためそりゃ自分の知らない一面があるのも当然かと一人頷いた。こちらに気付く様子がないのでまた何か彼の怒りに触れないうちに去ろうと方向転換する前に、またタイミング良くがやってくる。同じく風呂上がりのようで、熱さに弱く逆上せ気味になりやすい彼女はいつも火照りを冷ますためにソファのところで一休みしていくのだ。自分のミネラルウォーターを持ってフラフラと爆豪の隣へ腰を落ち着かせる。
「爆豪くんもお水いる?」
「いらね……髪ちゃんと乾かせや」
「うん…今元気がないので後で…」
熱いが、お風呂自体は大好きなのでゆっくり温もってしまうは今日もばっちり逆上せていた。まだ濡れたままの髪を指摘されるもぼんやりとしている。
「…向こうむけ」
「ん?」
「身体ごと」
「んん?」
「はよしろ」
ソファに座ったまま自分が座っていない方にを向かせた爆豪は彼女の肩にかけられていたタオルを取ってその頭に被せた。「拭いてくれるの~?」と力の抜けた声に無言で返し、しかし壊れ物を扱うかのように丁寧に髪の水気を取っていく。これには黙って見ていた緑谷も声を上げそうになった。先ほどが姿を見せたときに何となく影に隠れてしまったのだが、己の存在を認めていないからこそ爆豪もここまでやっているのだろうと思うとすごく居た堪れない。完全に出るタイミングを見失った緑谷はすぐ部屋に戻ればよかったと項垂れる。どうしたものかと天井を見つめていると、ある程度髪を乾かしてもらい水分補給もできて少し元気になったがテレビで紹介されているスイーツに食いついた。
「チョコケーキ美味しそう~!あっお店の名前見逃した…」
「……ここだろ」
「調べてくれたの!?さすが爆豪くん!」
ソファの背もたれに身体を預け相変わらずつまらなそうにしているかと思えば、ちゃんと番組に集中しているようだったより店の情報を見ていたらしい。スマホで検索する爆豪に身を寄せ画面を覗き込む。その距離の近いこと、緑谷は本日何度目かの驚愕に口を手で覆った。の方は元々パーソナルスペースが狭く、誰かにくっついている姿を見るが爆豪は違う。
「おお!結構近い…!行きたいなあ」
「……」
「えっプリンも美味しそうだよ!」
気持ちが高ぶっているのかブンブンといつもより大きく揺れている尻尾が爆豪の頬などを掠めており、いつ鬱陶しいとキレるかしれないと緑谷は内心ハラハラしていたのだが心配は杞憂だったようで。何も言わずそれどころか酷く穏やかである。というか本当に距離が近いのだが、あの2人の関係は如何に。いよいよ本格的に首をひねる緑谷の肩にポンッと手が乗せられる。突然のことに身体を跳ねさせ後ろを振り向くと上鳴がキメ顔で立っていた。
「あいつらこれで付き合ってないんだぜ」
浅葱さまへ!
この度は3周年お礼リクエスト企画に参加していただきましてありがとうございました!Irbis主爆豪お相手で、日常の付き合っていないけど甘いお話とのリクエストでしたが…これはほの甘になって…るか…?ご期待に沿えずな出来上がりでしたら申し訳ございません!思ってたのとちゃうやんけー!という感想は浅葱さまからであれば受け付けます…。SNSでも仲良くしてくださって本当に、嬉しいですわたし!!改めて敬語使っているとなんだか気恥ずかしいというか、付き合いたてのあの頃を思い出すね…(突然の記憶改ざん)ヘヘッこれからも当サイトとわたくしをよろしくお願いしますあさりん大好き~!